第1部 第10章(後)

alice

世界図

世界図

目次

18の刻 レメス砂漠

18の刻 ヴィニュマール霊山

19の刻 中央都市ロレーヌ

20の刻 サントラル平原

20の刻 ヴィニュマール霊山

21の刻 サントラル平原

21の刻 中央都市ロレーヌ

22の刻 サントラル平原

22の刻 ヴィニュマール霊山

23の刻 サントラル平原

24の刻 ヴィニュマール霊山

24の刻 サントラル平原

25の刻 中央都市ロレーヌ

18の刻 レメス砂漠

レメス砂漠を埋め尽くすほどの亡者の大群。それを率いるのは一人の少女である。アレスとは逆側に翼を生やすその少女は、 “シルヴィ” という名の煉獄の使徒であった。

「行きましょう、我が同胞たち。中央都市を攻め落とします。」

シルヴィが亡者たちに指示を出す。

亡者ゆえに足取りは遅いが、その歩みは確実に中央都市へ迫っていた。

「兄さま…………」

シルヴィは考える。兄であるアレスが人間に後れを取ったとは考えたくないが、計画はファティマ様の予期していた第二段階に移行した。

曰く、ヴィニュマール霊山とレメス砂漠の両側からの同時侵攻。海上や平原からのモンスターの襲撃は、すべてこのための布石であったと言ってもいい。

“不死の軍団” とも形容されるシルヴィの傀儡は、計画の切り札でもあった。モンスターとは違い、死を恐れずに迫る亡者たちは、人間にとってはこの上なく分の悪い相手である。

その群れの後ろを飛びながら、シルヴィは思考を再開する。

「私も、兄さまも、この呪われた運命からは逃れられないのですね……。それならば、人間に、世界に、一矢報いるのが定めというもの……。」

そこで言葉を切り、

「私たちに来世など、無いのですから……」

ネイビャスと同じ言葉を呟くのであった。

18の刻 ヴィニュマール霊山

アレスが撤退した霊山のふもとでは、未だ混乱が収まってはいなかった。

エリオルやアリス、ジェラルドはアイリーンと言葉を交わし、セティアとフォルトはフェルナンドを見舞っていた。その周りでは傷を負った教会騎士たちが治療を受けている。

その時、教会騎士の一人がフェルナンドに声をかけた。

「フェルナンド教区長! 中央都市警備隊の本隊より伝令です! 『サントラル平原の南、レメス砂漠の方面に不穏な動きあり』とのことです!」

フェルナンドが振り返って応える。

「レメス砂漠……。敵側にも未だ伏兵が潜んでいたか……。教皇様、いかが致しましょう。」

アイリーンは少し考え込みながら言った。

「ファティマが潜んでいる霊山に攻め入らないことには、事態を収拾できません。アレスも未だファティマの側に控えています。とはいえ、南からの侵攻も無視することはできませんね。ここからは、私が教会騎士を率いてファティマの元を目指します。フェルナンド、あなたは傷を癒しつつロレーヌでシェイル市長を補佐しなさい。」

そこでアイリーンは、丘のようにそびえるセルヴァ―トの巨躯を見上げながら言った。

「古代竜セルヴァ―ト。先の戦役でユージーン様に貸していただいたその力、今度は私たちに貸してはいただけないでしょうか?」

「アイリーン、だったか。お前も変わらんな……。大人しいようでいて、物怖じしないその性格。あの男の側に居た頃のままだ。」

そこでセルヴァ―トは僅かな逡巡ののちに答えた。

「よかろう。気まぐれついでに、この戦い、最後まで付き合ってやろう。だが、すべての決着はお前たち人間がつけることだ。私はそれを見守らせてもらおう。」

「感謝します。」

アイリーンは一礼して応えた。

次にアリス達の方を向き、言葉を続ける。

「アリス、エリオルさんとジェラルドさんも……。三人はフェルナンドと共にいったんロレーヌへ戻るのです。セティアとフォルトは私と共にファティマの討伐に力を貸してもらいますよ。」

「はい、教皇様!」

「かしこまりました!」

敬礼するセティアとフォルトに対し、アリスは少々不満そうに尋ねた。

「義母さま…………、私たちは戦場から離れろと、そう仰るのですか?」

アイリーンは、ふっと微笑みをこぼしながら答えた。

「ふふっ。あなた達がそれで納得するとは思っていませんよ。まずはシェイル市長の元を訪れなさい。そこで今後の策を練るのです。その後は、あなた達の思う通り動いてみるといいでしょう。あなた達は大陸を巡る旅で本当に成長しました。アリス、あなたは私の自慢の娘ですよ。」

アリスは少々赤面しながら、アイリーンの目をしっかりと見て言った。

「義母さまも、お気をつけて。」

「ええ、あなた達も。そしてすべてが終わったら、ゆっくりと話をしましょう。まだ、あなたの冒険譚を聞かせてもらっていませんでしたからね。」

「はい。約束ですよ、義母さま!」

アリスは笑顔でアイリーンの元を後にした。傍らにはフェルナンドをかばいながら歩くエリオルとジェラルドが続いた。

その後ろ姿を見つめながら、アイリーンはひとり呟く。

「本当に立派になりましたね、アリス…………」

another time……

19の刻 中央都市ロレーヌ

中央都市ロレーヌの市長の執務室には、シェイル、ルシウス、フェルナンド、そしてエリオル達が顔を揃えていた。

シェイルが尋ねる。

「ルシウス、敵の規模は?」

「数千といったところでしょうか……。まさに「亡者の大群」という言葉がその様を表わしています。平原の南に中央都市警備隊の陣を張りましたが、間もなく交戦に入るかと思われます。」

答えるルシウスの表情もあまり芳しくない。

シェイルが額に手をやりながら言う。

「亡者か。厄介だねぇ。普通の武器では効果が薄い。海上部隊からも腕利きの者を集めて、警備隊の魔術兵を中心に部隊を再編成しよう。」

「かしこまりました。」

ルシウスがすぐさま、部下に指示を出す。そのまま伝令兵が数名戦場へと向かった。

シェイルは遠い目をしながら呟いた。

「やれやれ……。不死者を浄化する聖なる炎でもあればいいんだけどね。」

「無茶な事を言わないでください……」

フェルナンドが傷をかばいながらシェイルをたしなめる。

「フェルナンド、君もよくやってくれた。あとはルシウスやアイリーン殿に任せて、治療に専念したまえ。」

「シェイル市長、私はまだ戦えます! 敵に遅れをとったまま戦場を離れるなどできかねます!」

「君は充分に活躍しただろう? あとは若いものに任せればいいさ。」

「しかし……」

「僕の目には常に事象の因果が見えている。分かるだろう? 君には他に役割があるのさ。」

「…………。分かりました。」

「さて、問題は君たちだ。」

シェイルはエリオル達の方を見て言った。

「ヴィニュマール霊山では、あのアレスを相手に後れを取らなかったそうじゃないか。今となっては君たちの力を疑いはしないさ。ルシウスの指揮の元、存分に力を発揮してくれたまえ。」

「ありがとうございます! シェイル市長。」

エリオルが答えた。

「ルシウス、君もそれで構わないね?」

「承知しました。」

ルシウスが部屋を後にしながら言う。

「ではシェイル市長、私はこれで。諸君も戦場での活躍、期待させてもらおう。」

そのままサントラル平原に向けて、ルシウスと警備隊の兵の一団は歩みを速めるのであった。

「僕たちも行こう!」

エリオルが言いアリスとジェラルドが頷いた。

another time……

20の刻 サントラル平原

平原では既に、砂漠方面から攻め寄せる亡者と中央都市警備隊の隊員たちが戦いを繰り広げていた。

傷も痛みも気にかけることなく襲ってくる亡者たちに、警備隊の面々は劣勢を強いられている。

セルヴァ―トも上空から加勢するが、炎に焼かれようが、爪に弾かれようが、亡者たちは歩みを止めない。

「厄介な者どもだ……。むやみに力を振るえば、人間共にも被害が出るであろうしな。」

敵味方入り乱れる戦場の状況に、セルヴァ―トも力を持て余しているようであった。

ルシウスが戦場全体に届くほどの声で号令をかけた。

「諸君、怯むな! 死を恐れぬのは我らとて同じ! 中央都市を守れるのは我らが誇り! 諸君らの守りたい者たちのため、ここは一歩も引き下がるな!」

続いて、ルシウスが指示を出す。

「近接戦を得意とするものは前に出て敵を足止めするのだ! 魔術兵は動きを止めた敵を確実に仕留めよ!」

「「「「おぉー!」」」」

「すごいね、ルシウスさん……。この状況で的確に指示を出してる……。」

アリスが感嘆をもらす。

エリオルが答えた。

「僕たちも負けてられない! 行こうジェラルド! アリスも援護をお願い!」

「おぅ! やってやろうぜ!」

「任せて、エリオル!」

その時、上空から声がした。

「無駄です……」

エリオル達が声の方に視線を向けるとアレスに似た翼を生やした少女が前線に舞い降りた。

ジェラルドが問いかける。

「その翼……、アレスの仲間か?」

少女が答える。

「私はシルヴィ…………。アレスは私の兄です。」

「!?」

エリオル達が不思議そうな顔をしているとシルヴィが言った。

「煉獄の使徒に、兄妹の概念が存在することが不思議ですか?」

シルヴィが続ける。

「私は生前から兄さまの妹であり、それは煉獄の使徒になってからも変わりません。」

「生前…………。それでは、あなたもユグドラシルから世界の真実を……」

アリスが何かを察したように言った。

「ええ。ファティマ様を通じて。」

答えるシルヴィは少し悲し気であった。

エリオルが強く想いを伝える。

「だったら、こんなことはもうやめようよ! 煉獄の使徒として生まれ変わったからと言って、世界を破滅させることに加担する必要なんかないよ!」

「ファティマ様は言いました……。世界の歪みによって生まれ、決して浄化されることなく消えていく私たちの為すべきことは、この世界に破壊をもたらす事だけだと。」

ジェラルドが語気を荒くして問い詰める。

「そんな勝手な理屈が通ると、本気で思っているんじゃねえだろうな!?」

対するシルヴィも、声を荒げた。

「それでは、兄さまは! 私は! 何のために再びこの世界に生を受けたというのですか!? ファティマ様の言う通り、私たちには何かを壊す力と意志しかもたらされていません。」

それは心の底から絶望を味わった者の静かな叫びだった。

アリスがそんなシルヴィに言葉を投げかける。

「それでも、 “人” のために何かを成すことはできるではないですか!」

シルヴィは首を振り、強く答えた。

「分かりませんか? 私たちにもたらされた意志は、その “人間” を呪い、災厄を振りまくことにしか向けられないのです。」

「それが……! 煉獄の使徒の定めだっていうのかよ……!」

ジェラルドがこぶしを握り締めながら唸った。

エリオルも堪えられず言葉を口にする。

「そんなの! そんなの悲しすぎるよ! 元はこの世界の命であるあなた達が、破壊をもたらすだけの存在になるしかないなんて!」

シルヴィはすべてをはねのける様に答える。

「同情は要りません。あなた方も、煉獄の使徒は滅ぼすべき存在、そう思って生きてきたはず。我々が相容れる道など無いのです!」

「戦うしかないのかよ……!」

「エリオル、気を付けて! すごく強い魔力を感じる!」

ジェラルドとアリスの言葉を受けて、エリオルが続く。

「僕たちはあきらめない! あなた達が考えを変えるまで、何度でも立ち向かってみせる! それが、真摯な気持ちであなた達に向き合うということだと思うから……。だから! 僕たちは絶対に負けはしないよ!」

20の刻 ヴィニュマール霊山

聖王教会の教会騎士たちは、教皇アイリーンの指揮の元、霊山へと攻め入っていた。

「地の利は相手方にあります。数名ごとに陣を維持し、敵を各個撃破するのです!」

アイリーンの命令に一斉に答える騎士たち。

モンスターの数は多いが、アイリーンの的確な指示により、兵は徐々に霊山の奥深くへと迫っていた。

ふと、アイリーンが同行させていたセティアとフォルトを呼び寄せた。

「二人とも……、これを。」

「教皇様?」

「何かあったのですか?」

セティアとフォルトが、疑問を浮かべながらアイリーンの元に集まる。

アイリーンの手には光の球体があった。そこには、サントラル平原と思われる景色が映っていた。

「これは、投影の術式ですか。」

「映っているのはアリスたちね……」

《  『生前…………。それでは、あなたもユグドラシルから世界の真実を……』  》

「アリスの声……。相手は煉獄の使徒のようですけど……」

セティアの言葉にアイリーンが返す。

「おそらくは “シルヴィ” でしょう。アレスと同じく、ファティマに従っているようですね。」

《  『だったら、こんなことはもうやめようよ! 煉獄の使徒として生まれ変わったからと言って、世界を破滅させることに加担する必要なんかないよ!』  》

「エリオル……、言うようになったね。」

フォルトが感心したように呟く。

《  『ファティマ様は言いました……。世界の歪みによって生まれ、決して浄化されることなく消えていく私たちの為すべきことは、この世界に破壊をもたらす事だけだと。』  》

「そんなこと……!」

「っ……!!」

「なるほど……」

少なからずショックを受ける二人と何かに納得するアイリーン。

《  『それでは、兄さまは! 私は! 何のために再びこの世界に生を受けたというのですか!? ファティマ様の言う通り、私たちには何かを壊す力と意志しかもたらされていません。』  》

「アレスとシルヴィ、そしてファティマは、世界の真実を知り、絶望に飲まれてしまったのですね……」

アイリーンの表情が陰る。

《  『そんなの! そんなの悲しすぎるよ! 元はこの世界の命であるあなた達が、破壊をもたらすだけの存在になるしかないなんて!』
『同情は要りません。あなた方も、煉獄の使徒は滅ぼすべき存在、そう思って生きてきたはず。我々が相容れる道など無いのです!』
『僕たちはあきらめない! あなた達が考えを変えるまで、何度でも立ち向かってみせる! それが、真摯な気持ちであなた達に向き合うということだと思うから……。だから!僕たちは絶対に負けはしないよ!』  》

「エリオル……、あんたは、あんたは何でそこまで…………。でも、そうよね……。悲しすぎるわよ、こんな世界……」

「エリオル達がシルヴィと交戦に入りますね。大丈夫でしょうか、教皇様。」

「ここは、彼らを信じましょう。ルシウス殿やセルヴァ―トもついていますしね。」

ふいに、上空が騒がしくなった。翼のような音がいくつも空を駆けている。

周囲の兵たちが驚きの声を上げる。

「なんだ!?」

「新たな敵襲か!?」

「いいえ、違いますね……。あの方向は……」

慌てふためく兵たちの中で、アイリーンはすぐさま敵の狙いを察知した。

その上空を、有翼モンスターが中央都市へ向かい羽ばたいていく。苦い顔をするアイリーン。

「上空から直接、中央都市を攻めるつもりですか……。南に戦力を割いている今、都市に残存する戦力は僅か……。こればかりは、シェイル市長の手腕に頼るしかないですね……。」

アイリーンは兵を鼓舞して言う。

「敵の大元を叩きます。一刻も早くファティマの元へ!」

「「「「「おぉー!!!」」」」」

another time……

21の刻 サントラル平原

「ルシウス隊長!」

ロレーヌの市内から伝令兵が駆けつけてきた

「何事だ!?」

亡者の一群を切り伏せながらルシウスが尋ねる。

「霊山方面の上空からモンスターの襲来です! 空から直接、市内に攻め込んでくる可能性が高いと、斥候から連絡がありました!」

「なんてことだ……。ただでさえ砂漠方面からの敵に悩まされているというのに。この場に、市内に割けるだけの兵の余裕はない……。」

聞いていたジェラルドが思わず叫ぶ。

「そんな! 何か方法は無いのかよ、ルシウスさん!」

ルシウスも決断に困っているようだった。それでもすぐに伝令の兵に指示を出す。

「温存していた海上部隊の弓兵、魔術兵を市壁に集中させるのだ。市内の市民には、安全な所へ身を隠すように徹底することも忘れるな。」

「はっ!」

伝令兵はロレーヌ市内へ戻っていった。

アリスが心配そうに尋ねる。

「ルシウスさん……、敵の規模に対して、市内に温存されていた兵の数は……」

「わずかだ…………」

「それじゃあ、街は……!?」

エリオルがたまらず問い詰める。

ルシウスの額に汗がつたう。口を開いたルシウスは重々しく言った。

「長くはもたない……。このままでは、まさに ”聖王戦役の再来” だ。市民に被害が出るのも時間の問題だろう…………」

その会話の間にも、亡者たちの攻撃は休まることはない。市内に援軍を送ることも叶わず、兵たちは疲弊していくばかりであった。

それを見てシルヴィが、フッと笑った。

「これが “定め” なのです。私たちの存在は人間を凌駕できる。人間という種の淘汰こそ、私たち煉獄の使徒の存在意義なのでしょう。」

「人間は、そんなに弱くないよ!」

エリオルが思わず言い返した。

冷たい目でエリオルを見ながら、シルヴィは言う。

「あなた達だって、一人では何もできない、か弱き存在でしょう。」

それに対し、エリオルは力強く言い放った。

「確かに僕たち一人ひとりは弱い! それでも僕たちは、いろんな人たちの力を借りてここまで旅をしてきた! そして、今ここに立っている! 僕たちの築いてきた “絆” は、決してあなた達に負けたりはしないよ!」

シルヴィは憐れみと蔑みの混じった視線を送りながら、これが最終通告だと言わんばかりにエリオルに宣言した。

「それでは、その “絆” とやら、せいぜい私に見せて下さい。このまま中央都市が陥落するようなら、あなた達の言う力など、その程度のものなのですから!」

互いの想いをぶつけ合いながら、戦闘は佳境を迎える。エリオル達は決して諦めていなかった。仲間を信じ、今、自分達にできる精一杯で状況を打開するため、運命に立ち向かうのであった。

21の刻 中央都市ロレーヌ

「シェイル市長、北の市壁から敵の姿が確認できたようです。有翼モンスターの類が、一斉にこの中央都市を目指しています。ルシウス殿の指示で市壁に兵を配置しましたが、どこまで持ちこたえられるか…………。」

「持ちこたえられるか、ではないさ、フェルナンド。できるかどうかではないのだよ。何としてでもやってやろうという意志が因果を紡ぐのさ。その意味では、どうやら彼らがこの街に戻ってきたのは偶然じゃあなさそうだ。」

「な、何を言っているのか、私には分かりません!」

「さて、そろそろ行かなければ。」

「シ、シェイル市長、どちらへ!?」

「最終演目をこの目で見に、さ。 そしてどうやら、僕にも役者として舞台に立つ役割があるようだ。」

「あなたが自ら戦場へ赴くというのですか?」

「その通り。」

「お待ちください! それは私の役目です!」

「おやおや、何を言っているんだい? 君の役目は、ほら、それさ!」

その言葉に、思わずフェルナンドが振り向く。そこに在ったものは……

「転移門……。これはアイリーン教皇様の……、なぜこんなところに?」

「はっ! シェイル市長!」

そこにはすでにシェイルの姿は無かった。

another time……

22の刻 サントラル平原

平原からも中央都市の様子が分かった。有翼モンスターの襲来で都市はパニック状態になっている。市壁に集められた中央都市警備隊の弓兵・魔術兵が奮戦しているものの、守りを破られるのも時間の問題であった。

「俺たちだけでも加勢に……!」

ジェラルドが我慢できずに言う。

だが、すぐにルシウスに止められる。

「駄目だ! 君たちが行ったところで状況は変わらない…………。」

「だけど、ルシウスさん!! このまま見ていろっていうのかよ!?」

「ここを死守するのが我々の使命だ…………!」

ルシウスの目は真剣だった。

そんな時、異変は起きた。レメス砂漠の遥か南から、空を飛ぶ一群がこちらに向かっていた。

「そんな……! こちらからもモンスターが…………!!」

兵の一人が思わず叫んだ。

すぐにルシウスが叱責する。

「弱音を上げるな! それに、何かおかしい…………。あれはモンスターではない!」

その言葉の通り、その空を舞う影はモンスターではなかった。

「あれは…………」

ルシウスが見上げる。その言葉を継いだのはエリオルだった。

「飛竜だ…………!」

エルフの眷属である飛竜たちが、エルフの戦士たちを乗せ、この戦場に姿を現したのだった。

その飛竜のうちの一体が、エリオル達の元へと舞い降りてきた。乗っていたのはデュークである。

デュークがエリオル達に告げる。

「久しいですね、皆さん。カルナス族長より、シェイル市長へ伝言です。『来るべき日は参った。我らは盟約に従い、そなたらに力を貸す』とのことです。」

そして力強く宣言した。

「私たちも共に戦います!」

デュークは周囲のエルフたちに指示を出した。

「中央都市を囲むように展開し、モンスターの市内への侵入をできる限り防ぐのです。」

エルフたちが飛竜を駆り、市内に侵入しようとしていたモンスターたちを薙ぎ倒していく。

それを見てジェラルドが叫ぶ。

「助かるぜ! まさかこんな心強い援軍が来るなんてな!」

アリスも続ける。

「本当に。感謝します、デュークさん! でもまだ、砂漠方面からの敵が……。デュークさん、こちらにも少し戦力を割いていただけませんか!」

「不死者の大群ですか。なるほど、彼女を連れてきたのは正解だったようですね。」

「?」

皆が疑問に思っていると、上空から少女の声が聞こえてきた。

「…………エリオルーーー!!!」

だんだん近づいてくる声に驚き、空を見上げると、トトが炎の翼をまとってふらつきながらこちらへ飛んできた。

「えぇーー!? トト! どうして、ここに!?」

エリオルの問いにトトは満面の笑みで答える。

「決まっておろう? エリオル達を助けにきたのじゃ! それよりも、会いたかったのじゃ~、エリオル!」

感極まってエリオルに飛びつくトト。

心なしかアリスの視線が痛い。

エリオルが目をやると、アリスは気まずそうに目線を逸らした。

デュークが呆れた顔でトトに言う。

「トト。ついていくと言って駄々をこねていた割には遅い到着ですね。」

「仕方ないじゃろう、デュー! まだ不死鳥の力がうまく使えないのじゃ! 空を飛ぶなんて初めての芸当だったんじゃぞ?」

エリオルは感心したようにトトに話しかける。

「トト! 不死鳥の力を操れるようになったんだね!」

「そうじゃぞ、エリオル。この程度の亡者たちなど、一網打尽じゃ!」

そういうと、精神を統一し何やら唱え始めるトト。

「わが身に宿りし不死鳥よ、その聖なる炎をもって悪しきものたちを焼き尽くせ! 舞え! 浄化の炎よ!」

言葉と共に、トトの身体から不死鳥の姿がゆらめき、実体化した不死鳥が光り纏う炎を生み出した。

エリオル達の周囲に居た亡者たちが、跡形もなく浄化されていく。

新たな加勢に、警備隊の兵たちからも歓声が上がる。

セルヴァ―トが舞い降りて、不死鳥に語り掛けた。

「火の山にこもっていたのではないのか? まさかこのようなところで相まみえようとはな。」

不死鳥も答える。

「久しいですね……。そちらこそ、長いこと姿を見せなかったようですが?」

「お互いさまと言う訳か。」

そう言うとセルヴァ―トはククッと唸るように笑った。

「浄化の炎とは便利なものだな……。私にはやつらを物理的に薙ぎ払うことしかできん。お前の炎のほうが余程効率がいい。」

「ご謙遜を……。あなたが実力を出したら、辺り一面消し飛んでしまうでしょう。」

「ああ。それもそうだな。ここらが潮時だ。気まぐれで人間どもに加勢していたが、あとは高見の見物をきめさせてもらうとしよう。」

「……任されました。」

そこで、不死鳥はトトの元へと戻り、語り掛ける。

「ゆきましょう、トト。あなたの持つ力を祈りに込めるのです。」

「む……、今までと同じでは駄目なのか?」

「もっと大きく……、私を通じてあなたの神力を増幅させるのです。」

「こ、こうか……?」

不死鳥を宿したトトの周囲に徐々に明るい炎が渦巻いていく。

次の瞬間、白い業炎が戦場を蹂躙した。その炎は触れたものすべてを燃やし尽くすのではなく、明らかに不死者のみに効果を発揮していた。

亡者の群れは焼き尽くされ、一瞬ののちに浄化されていった。戦場には僅かばかり残った亡者がシルヴィを守るように残されていた。

「わ、わっはっは……、ちょーっとやり過ぎたかもしれんのぅ……」

トト本人でさえ、冷や汗を流す始末であった。

「大丈夫ですよ、トト。これで、あの者たちの魂も救われます。」

優しく言う不死鳥に、トトはようやく微笑んで返した。

シルヴィは呆然として、信じられないという表情で立ち尽くしていた。

「形勢逆転だな! さあ、どうする!」

威勢よく戦斧をかざすジェラルドに対し、シルヴィは冷え切った声で言った。

「私とて覚悟はできてこの場所に立っています……。大命が果たせないのなら、せめて刺し違えてでも死を選びます!」

そのまま魔力を展開させようとするシルヴィの前に踏み出て、エリオルは言う。

「もう……、やめようよ……。」

無防備に両手を広げて……

それを見てシルヴィが僅かに動揺する。

「何を言って……」

それでも手に込めた魔力をエリオルに向けようとして……

「あなたがこれ以上傷つく必要なんてない!!!」

「っ!!」

シルヴィの心に何かが響いた。煉獄の使徒としての生き方しか知らずに生きてきた。現世の魂だったころの記憶を取り戻してからもそれは変わらなかった。自分たちは、世界の歪みの象徴。憎み、奪い、壊し続けるだけの存在。それなのに、何故この人間は自分を許そうとする? 何故、自分に優しい言葉をかける?

「もう、いいんだよ…………。もう、これ以上手を汚さなくても。」

エリオルの言葉がインクの染みのように心に侵食していく。怖い……。許されることを願ってしまうことが? 世界がそれを認めないであろうことが? どうあがいても自分は世界に仇なす存在である。そんな自分にとって……

「あなたは…………、眩しすぎます…………。」

そう言い残すと、シルヴィは魔力を開放し、その場から転移した。

「あいつ、どこへ……?」

ジェラルドの問いにアリスが返す。

「たぶん、アレスの元だと思う。魔力の残滓がヴィニュマール霊山の方へ向かってる」

そこに声をかける人物が居た。

「やあ、君たち。どうやら、ひとまずの危機は去ったようだね。」

驚いて振り返る一同。

「シェイル市長!?」

「シェイル市長、どうしてこちらに?」

エリオルに続いてアリスが尋ねた。

「まぁ、あれだね。デスクワークに疲れたってところさ。」

市長の呑気な答えに、ジェラルドとルシウスも呆れながら近づいてきた。

「おいおい、何言ってんだよ市長さん…………」

「そうです、市長! 敵は壊滅状態とはいえ、ここはまだ危険です。それに、戦局を読み指示を出すあなたが、こんな場所に居てどうするのです?」

「戦局、か……。そうだねぇ……、この争いはそろそろ決着だ。なにせ敵の総大将が、自らこちらへやってくるのだからね!」

「なんですと!?」

驚くルシウスをよそに、ヴィニュマール霊山を仰ぎ見るシェイル。

大きな影がこちらへ向かって飛んでくるのが皆にも見えた。中央都市付近で空中に待機していたエルフの飛竜たちも、さすがに手を出すこともできずにいる。

世界の運命に翻弄された強力な煉獄の使徒、双頭竜ファティマが、この場についに姿を現した。

22の刻 ヴィニュマール霊山

アイリーンの率いる教会騎士団は、ヴィニュマール霊山の最深部にまで攻め込んでいた。

フォルトが言う。

「飛竜のおかげで、街の被害は最小限に抑えられたかな。しかし、まさか中央都市に援軍を送ってくれるとは…………、エルフ族がシェイル市長との誓いに答えてくれたようだね。」

「デューク、カルナス族長……、今回ばかりは感謝するわ……。」

セティアも安堵した表情で呟いた。

そこにアイリーンが声をかける。

「あなたのおかげですよ、セティア。」

「いえ、私は何も……」

謙遜するセティアに、アイリーンは優しく微笑みながら言った。

「種族間の問題というのは非常に繊細な問題です。それを乗り越えて今回の協力を扱ぎ付けたのは、あなたが橋渡しをしてくれたことが大きく関わっています。胸を張りなさい、セティア。」

「は、はい……!」

セティアは少し照れ臭そうに返事をした。

アイリーンが声をかける。

「さあ、ファティマの居る場所まではそう遠くありません。気を引き締めましょう。それに、そろそろですね……。心強い援軍がこちらに向かっていますよ。」

「援軍、ですか……、それはいったい?」

フォルトの問いにアイリーンが答える前に、三人の背後に光が瞬いた。直後、転移門が開き、一人の男性が姿を現した。

ロレーヌ市内に居たはずのフェルナンドであった。

「ここは、ヴィニュマール霊山の中ですか……。教皇様! なぜ私を?」

アイリーンをの姿を目にしたフェルナンドが、驚きと疑問を口にした。

アイリーンが答える。

「フェルナンド。あなたの事ですから、シェイル市長が戦地に赴くというのに、自分だけ市内に残るというのは耐えられないだろうと思い、ここに繋いだのです。」

「それでこの転移門が、執務室に……。お気遣い、痛み入ります…………」

「フェルナンド教区長……。」

「傷は、もう大丈夫なのですか?」

「セティア、フォルト。ありがとう、私はもう大丈夫だ。微力ではあるが、再び皆に加勢させてもらおう。」

「では、行きましょう。すべての決着をつけるために!」

アイリーンが力強く言い、一同は霊山の奥に踏み込んだ。


「アイリーン……わざわざこんなところまでやってきたか。」

アレスが苦々し気に言う。

「ええ。レメス砂漠からの侵攻も、空からのロレーヌへの侵攻も、 “あの子たち” の絆で防がれました。私もあなた方と決着をつけねばなりません。ファティマはその先ですね?」

「ああ。だがお前たちがファティマ様に会う必要はない。俺がこの場で始末するのだからな!」

そう言いながら魔力を展開するアレス。

「なに、あいつ……、前に戦った時とは比べ物にならない力を…………」

「あの時ですら、まだ本気を出していなかったんだろう。気を付けてセティア!」

「分かってるわよ!」

セティアとフォルトが戦闘態勢に入る。そこに攻め込もうとしたアレスを止める声があった。

「待つのだ、アレスよ。」

「ファティマ様、いかがなされました?」

少し驚きながら、アレスが尋ねる。

「シルヴィがこちらへ向かっている。少々、心が揺らいでいるようだ。」

「シルヴィが敗れたというのですか? おのれ、人間どもめ……、この借りは大きいぞ…………!」

それから間もなく、転移の魔法陣が現れ、シルヴィが姿を見せた。

「シルヴィ!」

「兄さま……、ファティマ様……、申し訳ありません…………。」

「ファティマ様、シルヴィをお許しください。罰ならば俺が受けます。どうか……」

「構わん…………。まだ全てが終わったわけではない。アレス、そしてシルヴィよ、この場はお前たちに託すぞ。我は、奴らの元へ向かう。気になる若者がいるのでな。」

「か、かしこまりました……。シルヴィ、いいな?」

「はい、兄さま……。」

この場を後にしようとするファティマに、アイリーンが疑問を投げかける。

「ファティマ、待ちなさい! あなたをそこまで駆り立てるのは、いったい何の感情なのですか?」

「我自身の感情ではない。我を突き動かすのは、この世界の歪みだ。我の在り方は世界の在り方そのものだ!」

「やはり相容れることはできませんか…………」

「無論だ……。我はすべてを滅ぼす。それが定めだ。」

そう言うと、ファティマは飛び去った。

残されたアレスとシルヴィがアイリーンたちと対峙する。

「お前たち、何を言おうと無駄だ。俺たちの気持ちは揺るがないのだからな。」

アレスの言葉にアイリーンが静かに返す。

「残念です…………。本当に。」

それに構わず、アレスは続ける。

「俺たちはファティマ様と志を共にする者として、大命を果たす! 人間たちの文明に破壊をもたらす事によって、それを俺たちの存在意義とする! 邪魔するものは全て排除するのみだ。前世も来世も関係ない! 俺たちには “今” しかないのだ! ただ俺たちの生きた証をこの世界に! この定めに! この理(ことわり)に刻み付けてやる!」

そしてシルヴィがその後に続いた。

「世界は私たちにとって優しくないのです…………。どこまでも残酷で過酷な現実を突きつける。私たちの取る道が間違っているとしたら、それはこの世界の理が間違っていることに他なりません。私たちは世界の歪みの体現として、この道を歩み続けます! あなた達人間を脅かす存在として!」

対するセティアも黙っていなかった。

「あたしは煉獄の使徒が心から憎かった。お父さんとお母さんをあたしから奪った許せない存在だったから! あんた達が悪だと信じて疑わなかった! でも、そんなあたしでも、ユグドラシルから世界の真実を聞いて、あんた達の想いを聞いて、考えを改めたの。それなのに、あんた達はどうしてそんなに頑ななのよ!? 世界の歪みによって生まれた存在だから? 現世に仇なす存在だから?…………、そんなもの……、そんな運命覆してみせなさいよ!? 世界が憎ければなおのこそ、最後まで抗って見せなさいよ! それができないっていうのなら、あたしは立ち向かう。運命ごとまとめて、あんた達を討伐してみせる。その上で、もう誰もこんな思いをしない世界を作りあげてみせるわよ!」

フォルトも応じる。

「煉獄の使徒が “絶対悪” だとは今は思わない。課せられた運命に翻弄されている点では、僕たちと差異は無いのかもしれない。それでも、この世界に仇なすというのなら、僕たちも容赦はしない! 守りたいものを守るということに、僕たちは自分の命をかけているんだ! 互いに自らの行動原理に則って道を選択するとなれば、僕たちの道は相容れない……。それでも僕たちは信じる道を進むだけだ。必ず、あなた達を乗り越えてみせる!」

アイリーンがセティアとフォルトの肩に手をやりながら言う。

「アレス、シルヴィ…………。あなた達とこのような形で再び相まみえることになったことは、残念でなりません。ファティマもそうですが、ユグドラシルからもたらされた真実の重さに、現世へ、一矢報いることを望むのも無理はないのかもしれません……。ですが、忘れないでください、この子らの想いを。世界は、あなた達から全てを奪ったわけではないのです。あなた達によって世界に芽吹いた芽は、私が必ず最後まで見届けましょう。」

フェルナンドが、ふっと笑いながら締めくくった。

「若き者たちには敵わぬな。私のような頭の固い老人には、世界の理といった難しいことは理解できまい。だが、これだけは言える。戦う前、闘志をぶつけ合う前から、勝負は決まっている。強き意志と強き意志が互いにぶつかり合うというのなら、それを制するのは、何かを守ろうとする者だ。 “破壊” をもたらす事だけを行動原理としているお前たちには、私たちは倒せん! さあ! 覚悟を決めてもらおうか!」

パーティー
HP攻撃防御魔防習得
セティア
(Lv110)
2300020009002700
フォルト
(Lv110)
24900390018001800
アイリーン
(Lv150)
27500450030005000【ホーリーブラスト(敵全体に ダメージ(大) + 防御・魔法防御ダウン)】
【イノセント・サンクチュアリ(円範囲(自身中心:7マス)に HP回復(大) + 全ての状態異常を回復)】
フェルナンド
(Lv130)
29900600020002500【ルミナスアロー(単体に 素早さアップ(小) + 防御力アップ(大) + 2ターン回避率50%アップ)】
【聖弓・“破魔”(単体に ダメージ(大) + 行動順遅延】
Boss戦

アレス

属性:無属性  HP:113,300

攻撃力:9,000  防御力:1,200  魔法防御力:2,000

移動力:8  攻撃射程:10

技名 射程 効果
通常攻撃 10 単体に 無属性の魔法ダメージ9,000
レイジスラッシュ 2 単体に 無属性の(自身の残りHP依存で変動する)物理ダメージ
【残りHP/ダメージ】:【100%~50%/13,500】【50%~25%/15,000】【25%~0/16,500】
メテオスウォーム ALL 敵全体に 無属性の物理ダメージ7,500 + フィールド中央中心に吹き飛ばし7マス
スカーレット・ムーン ALL 火属性魔法:敵全体に 20%の確率で混乱 + 10%の確率で消滅
リヴェリオン 2 円範囲(自身中心:3マス)に 無属性の魔法ダメージ13,500 + 50%の確率でマヒ + 防御力1,200ダウン

シルヴィ

属性:無属性  HP:93,000

攻撃力:7,000  防御力:1,200  魔法防御力:2,000

移動力:8  攻撃射程:10

技名 射程 効果
通常攻撃 10 単体に 無属性の魔法ダメージ7,000
デスサイス 2 単体に 75%の確率で即死
エナジーサック ALL 敵全体に 無属性の魔法ダメージ6,000 + 与ダメージの50%分HP吸収
アズール・ムーン ALL 氷属性魔法:敵全体に 20%の確率で凍結 + 10%の確率で消滅
リヴェリオン 2 円範囲(自身中心:3マス)に 無属性の魔法ダメージ10,000 + 50%の確率でマヒ + 魔法防御力1,200ダウン

another time……

23の刻 サントラル平原

ファティマの出現に、戦場は騒然となった。

誰もがその場を動けずにいる中で、エリオルが一歩踏み出て語り掛ける。

「あなたが、“ファティマ” だね……?」

「いかにも、それが我の名だ。もっとも、前世から名乗っている名でないのは確かだがな。」

そう言うと、ファティマは思い出したように付け加えた。

「シルヴィの心がだいぶ揺らいでいた…………。お前に随分と影響を及ぼされたようだ。それで、我もお前に興味が湧いたのだ。」

エリオルが答える

「シルヴィにも言ったけど、これ以上あなた達が傷つく必要なんてないんだよ!」

「面白い事を言う。我らが傷ついていると? 甘く見るでないぞ、小僧! 我らは世界に与えられた役割として世界に破壊をもたらす。これは世界の意志だ!」

ファティマの言葉には迷いが無かった。それならばと、エリオルも自らの意志をぶつける。

「僕たちとあなた達の道が相容れないというのなら、僕らは僕らの役割を果たす。それが、たとえ世界に課せられた理不尽な道だとしても。」

「それでいい。元々違えた道、手を取り合う未来など存在しないのだ。」

「でも! それでも僕らは、あなた達の存在を忘れない! この世界の一つの形として存在していたあなた達のことを、自分たちの心に刻み付け続けるよ!」

エリオルの言葉にも迷いは無かった。その瞳はどこまでも真っ直ぐにファティマを見つめていた。

「生意気な口を利くものだ……。もう我に勝ったつもりか? 仮にお前たちが我らを打ち滅ぼしたとして、我らのことを覚えておくことに何の意味がある? 仮初めの平和に現(うつつ)を抜かし、消えゆくものになど何の感慨も抱かないのが人間であろう!」

「だけど! 僕たちは知ってしまったから……。あなた達の、討伐してきた煉獄の使徒たちの、存在した意義を無視することはできないよ!」

「お前は……、この世界の理を知った上で、その矛盾もすべて飲み込もうというのか? たかが人ひとりという存在で、この世界の歪みに真っ向から立ち向かう覚悟があるというのか!?」

ファティマの言葉は、怒りよりも呆れからくるものであるようだった。

「僕ひとりでは、できないよ……。でも、僕には仲間がいる! 同じ志を持った仲間が! みんなが居れば、この悲しすぎる世界の仕組みに立ち向かう術もあるはずだ!」

エリオルは言い放った。思わず言葉を失ったファティマに対し、言葉を継いだのはジェラルドだった。

「エリオル……、ほんと、お前ってやつは……いつの間にこんなに逞しくなりやがったんだ? 兄貴分としては誇らしいが、寂しくもあるんだぜ? お前がどこか遠くへ行ってしまうようでな……。でも俺はどこまでもお前についていくぜ! 俺は決めたんだ。この先何があろうと、俺は一生お前の “兄貴” で在り続けるってな!」

アリスも続いた。

「私も、エリオルと同じ道を歩く覚悟はできているよ。煉獄の使徒の問題は、義母さまの力を借りなければ、私なんかじゃ解決できるものではないかもしれないけど……。それでも、ファティマさん! あなたのような苦悩をもう誰もしなくていい世界を目指して、私たちは歩みだせるはずです。その道を阻もうとするのなら、あなたが世界の理の通りに破壊をもたらすというのなら、私はあなたを乗り越えてみせます!」

三人が思いの丈をぶつけたのを見て、ルシウスとシェイルは顔を見合わせて苦笑した。

ルシウスが言う。

「ふっ……、若いとは恐ろしいものだ。果てのない夢物語を語るだけでなく、それを実現させるだけの意志を持ち合わせている。君たちのような若者が居る事こそ、この世界が矛盾を持ち合わせながらも存在している意義なのだろう。ファティマよ!この者たちの姿を見て何も思うところはないのか? そうであれば、この私の剣は躊躇いなく貴様を貫くぞ!」

シェイルも続いた。

「やれやれ。僕はどうもこういう熱い展開は苦手でねぇ……。でも、これだけは言える。 “事象の因果” にも左右されない者たちが何を成し遂げるのか、僕は非常に興味がある。ファティマ、僕も君と同じさ。世界に役割を課されるだけの存在として、道化のように共に戦場で踊ろうじゃないか。そして、世界が何を選択するのか、僕に見せてくれたまえ!」

それぞれの想いを受けて、ファティマが戦闘態勢に入った。

「愚かな者たちだ……! もはや語ることもあるまい。我が力、世界の選択、その身に刻み込むがよい! ゆくぞ! 我が覇道を阻む者たちよ!」

パーティー
HP攻撃防御魔防習得
エリオル
(Lv110)
26100600036001100
アリス
(Lv110)
2240015009003600
ジェラルド
(Lv110)
2850058003600700
ルシウス
(Lv130)
32000720035001000【白桜流奥義・桜花絶風(敵全体に ダメージ+防御力ダウン)】
【落葉(単体に ダメージ+行動順遅延)】
【雪花迅雷(自身に 素早さアップ)】
シェイル
(Lv100)
24000200015001500【スライハンド(味方全体にHP回復(中)+1ターン回避率50%アップ)】
【ドローカード(味方全体に 攻撃力・素早さアップ or 防御力・魔法防御力アップ)】
Boss戦

ファティマ

属性:無属性  HP:289,500

攻撃力:14,000  防御力:2,000  魔法防御力:1,200

移動力:6  攻撃射程:5

ファティマ(ライトヘッド)※攻撃可能部位(HPは共通)
技名 射程 効果
通常攻撃 5 単体に 無属性の物理ダメージ14,000
火炎 7 単体に 火属性の物理ダメージ18,000
地裂撃 7 直線範囲(幅:3マス)に 土属性の物理ダメージ8,000 + 50%の確率でスタン
マッシヴオービット 10 円範囲(対象中心:5マス)に 無属性の物理ダメージ10,000 + 50%の確率でスタン + 吹き飛ばし7マス
ジオ・ディザスター 5 直線範囲(幅:7マス)に土属性の物理ダメージ14,000 + 行動順遅延(大)
玄武陣 土属性魔法:「ファティマ(ライトヘッド)」と「ファティマ(レフトヘッド)」に 防御力1,000アップ(3ターン)
ファティマ(レフトヘッド) ※攻撃可能部位(HPは共通) ※2ターンに1度、行動不能
技名 射程 効果
通常攻撃 5 単体に 無属性の魔法ダメージ14,000
クリムゾンフレア 10 単体に 火属性の魔法ダメージ20,000 + 50%の確率で混乱 + 50%の確率で暗闇
バーニングブラスト ALL 敵全体に 火属性の魔法ダメージ10,000 + 攻撃力600ダウン
ガイアクラスト ALL 敵全体に 土属性の魔法ダメージ14,000 + 20%の確率でスタン + 20%の確率で石化
カオティックフレア ALL 敵全体に 火属性の魔法ダメージ18,000 + 20%の確率で悪霊
パワーチャージ 火属性魔法:「ファティマ(ライトヘッド)」に 攻撃力1,000アップ(3ターン)

another time……

24の刻 ヴィニュマール霊山

アレスとシルヴィの周りを淡い光の残滓が包む。二人から放たれる瘴気も、とても弱々しいものとなっていた。

「力を使い果たしたようですね…………。」

アイリーンが悲し気に呟く。

「俺たちは、死ぬのか…………。いや永久にこの世界から消滅するのだったな…………。」

「兄さま……、兄さま! この世界から消え果たとしても、私の心は永遠(とわ)に兄さまの元に…………」

「ああ、俺も同じだ、シルヴィ…………」

二人のやり取りにセティアとフォルトが複雑な表情を浮かべる。

「あんた達…………」

「あなた達の意志は僕たちの心に生き続ける。それも含め、この世界の在り方なのだろうね。」

フェルナンドも目を伏して呟いた。

「敵ながら、悲しきものだ……。別の形で相まみえたらと思わずにはいられぬな…………。」

シルヴィが力なく言葉を紡ぐ。

「ああ、兄さま……、空が、青い、です……。昔、二人で見た、時のように…………。」

アレスもそれに応える。

「ああ……、そう、だな……、シルヴィ。できることなら、もう一度、あの頃のように…………」

それが二人の最後の言葉になった。

二人を包む光は薄れていき、煉獄の使徒アレスとシルヴィは、この世界から完全に消滅した。

24の刻 サントラル平原

戦いの末、ファティマが地に倒れ伏し、辺りには轟音が鳴り響いた。

「僕たちの…………、勝ちだ…………!」

エリオルが宣言した。

ファティマ達の企みも、すべてここに潰えたことになる。

ファティマが解せないといった様子で呟く。

「なぜ、だ…………。これでは、我らは何のために…………。」

エリオルがファティマの前に立ち、ゆっくりと言った。

「あなたが生きた意味は僕たちが受け継ぐ。もう、誰もこんな想いをしなくていいように。」

「ふっ……、これが定めか…………。」

ファティマが目を閉じながら、うわ言のように呟いた。

「アレス、シルヴィ……。我の国の、民の筆頭が……、お前たちであったこと……、誇りに思うぞ。我に……、力がなかったばかりに……、すまなかった……。願わくば、お前たちだけでも……………………。」

それがファティマの最後の言葉になった。淡い光に包まれたファティマの姿が霞んでいき、後には光の残滓だけが残った。

煉獄の使徒ファティマは、今ここに消滅した。

「国……。民(たみ)……? 何を言っていたんだ?」

ジェラルドが疑問を口にする。

「たぶん、煉獄の使徒になる前の、人間だったころの記憶……。」

答えるアリスもどこか遠い目をしていた。

エリオルが口を開いた。

「行こう、みんな。僕たちはこれから、やらなきゃいけないことが山ほどあるから…………。」

“聖王戦役の再来”  そう呼ばれることになる戦いは、今、静かに終結した。

another time……

25の刻 中央都市ロレーヌ

戦いの翌日、中央都市の市庁舎の前では、シェイル市長による勝利宣言が行われていた。

「諸君! 我々は再び、この都市に迫る脅威に打ち勝った! 中央都市警備隊や聖王教会の者たちの活躍は周知のことだが、それ以外にも多くの者が我々を救ってくれた。この戦いは歴史に刻まれるだろう。煉獄の使徒への脅威は未だ去ったわけではないが、我々は手を取り合うことでそれに立ち向かうことができる。 “絆” こそ我ら人間の強さだ!」

わぁー!!と市民から歓声が上がる。

「世界の真実を知らない一般市民に向けたメッセージとしては、これが精一杯でしょうね。」

セティアが皮肉げに呟いた。

「仕方ないさ、煉獄の使徒の生い立ちを知っている者は限られている。」

フォルトも難しい顔をして返す。

アイリーンが二人に声をかけた。

「これからが大変ですよ、セティア、フォルト。教会は今までの立場を覆すわけにはいきません。表向きは煉獄の使徒の討伐を任務としながら、この不条理な世界に抗う道を手探りでも探っていかなければなりませんからね。」

「はい。」

「承知しています。」

「あなた達にも期待していますよ。」

「教皇様……。」

セティアが嬉しそうに顔をほころばせた。

「義母さま!」

人波の向こうからアリスが駆け寄ってきた。エリオルとジェラルドも一緒である。

それを見てアイリーンが静かに呟いた。

「さあ、行きましょう。私たちは前へ進まなければならないのですから。」

彼らは歩み続ける…………、今は亡き者たちの想いを背に。

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