第1部 第9章(後)

alice

ヴェルト山脈

パーティー
HP攻撃防御魔防習得
エリオル
(Lv95)
2260052003100900
アリス
(Lv95)
1940013007003100
ジェラルド
(Lv95)
2470050003100600
セティア
(Lv95)
1990017007002300
フォルト
(Lv95)
21600340015001500
敵データ
  • ワイバーン
  • マウンテンロック
  • レイニークラウド
  •   
  • 属性:無属性  HP:14,800

    攻撃力:7,400  防御力:1,000  魔法防御力:600

    移動力:7  攻撃射程:3

    技名 射程 効果
    通常攻撃 3 単体に 無属性の物理ダメージ7,400
    火炎 7 単体に 火属性の物理ダメージ8,500
    疾風 7 直線範囲(幅:5マス)に 無属性の物理ダメージ7,000 + 50%の確率でスタン + 吹き飛ばし5マス
      
  • 属性:土属性  HP:10,500

    攻撃力:6,800  防御力:1,400  魔法防御力:0

    移動力:4  攻撃射程:2

    技名 射程 効果
    通常攻撃 2 単体に 無属性の物理ダメージ6,800
    自爆 3 円範囲(自身中心:3マス)に 無属性の物理ダメージ10,000(防御無視) + 吹き飛ばし5マス
    ※自身のHPが0になる。
    ストーンシャワー 10 直線範囲(幅:5マス)に 土属性の魔法ダメージ7,000
      
  • 属性:無属性  HP:8,800

    攻撃力:6,500  防御力:10,400  魔法防御力:400

    移動力:6  攻撃射程:2

    技名 射程 効果
    通常攻撃 2 単体に 無属性の物理ダメージ6,500
    冷気 7 単体に 氷属性の物理ダメージ6,500 + 20%の確率で凍結
    レインシャワー ALL 敵全体に 水属性の魔法ダメージ6,000
      

ヴェルト山脈。大陸南東部の大きな山岳地帯である。港湾都市ダンケルクでの事件の際、バクを探し求めて一度訪れている場所でもある。しかし今回は山脈のさらに東部、古代竜の伝説の残る一帯にエリオル達はやってきていた。

「だけど、本当に竜なんて居るのかねぇ。ヨハンの話を疑うわけじゃねぇけど、あんなのただのお伽話なんじゃないか?」

そう言うジェラルドに対し、フォルトが答えた。

「まあ、君が言うことももっともさ。古代竜セルヴァ―トは伝説上の存在だからね。だけど、『火のない所に煙は立たぬ』とも言うぐらいだ……」

「伝説には真実も含まれているっていう事?」

エリオルの問いに、フォルトは微笑んで答えた。

「ああ。僕はそう信じているよ。」

一行は峡谷を歩いていた。空はどんよりと薄暗く、じんわり湿気に包まれていた。

「山岳地帯の天候は変わりやすい。嵐にならなければいいんだが。」

フォルトの懸念はすぐに現実のものとなった。次第に雨が降り出し、その雨足が徐々に強くなっていく。

「あそこに洞窟があるわ! いったん避難しましょう!」

セティアに促されながら、一同は山肌にぽっかりと口を開けた洞窟に入っていった。

「声が反響している……。ずいぶんと広い洞窟みたいだな。」

フォルトの言う通り、洞窟は天井も高く、先が見えないほど奥まで続いているようであった。

「ねえ……フォルト、まさか、ここって…………。」

「奇遇だね、セティア。僕も同じことを考えていたところさ。」

「どういうこと?」

2人の会話にアリスが疑問を投げかける。

フォルトは肩をすくめながら答えた。

「どうやら、僕らは辿り着いてしまったらしい。竜の住み処にね。」

古代竜の住み処

奥まで進んでいくと洞窟の終わりが見え、開けた場所に出た。

空は晴れ渡り日差しが差している。先ほどまでの雨が嘘のようであった。

その日の光に照らされて、鱗に覆われた巨大な姿が佇んでいた。

「何をしに、こんな所までやって来た…………人の子らよ。うっかり迷い込んだというわけではなさそうだな。」

「あなたが、古代竜セルヴァ―ト…………」

「まさか、本当に会えるなんて…………」

アリスの言葉には敬意と畏怖が、エリオルの言葉には純粋な驚きが込められていた。

「人間がこの地を訪れるなど何年ぶりか…………。さぞ、面白いみやげ話でも聞かせてくれるのだろうな。」

皮肉のこもったセルヴァ―トの声は、気の弱い者が聞いたら震えあがってしまうであろうほどの凄みを持っていた。

それでも勇気を振り絞り、エリオルは尋ねた。

「セルヴァ―ト。あなたの力を借りたいんだ。僕たちを空中庭園まで連れて行ってくれないかな。」

「なぜ私がそんなことをせねばならんのだ。」

「あんた、昔、聖王ユージーン様を浮遊城のゲートまで連れて行ったことがあるんでしょう?」

セティアの問いかけに、セルヴァ―トは少しだけ懐かしそうに呟いた。

「ユージーンか…………。そんなこともあったな。私は、この世界で勝手に振る舞う煉獄の使徒が目障りだった。ゲートを閉じに行ったあの男とは利害が一致しただけだ。お前たちには力を貸す理由がない。」

「そんな…………。」

アリスが絶望したような声で言った。

すると、突然セルヴァ―トが声をあげた。

「だが、待て…………。そこのお前、欠片を背負いし者の一人か? どうりで面影があるわけだ。」

「ぼ、僕? 『欠片を背負いし者』って、確かアヌビスも僕のことをそう呼んだけど…………」

エリオルが疑問を口にする。

「ふむ。おもしろい。私を打ち負かすことができたら、その時はこの翼、惜しみなくお前たちのために使おうではないか。」

「結局、戦うのかよ…………。まあ、分かりやすくて良いけどな。」

ジェラルドが戦斧を構える。

セティアとフォルトがそれに続いた。

「実力は煉獄の使徒以上かしらね。腕がなるわ!」

「やれやれ、伝説の竜と対峙するとは…………」

アリスはエリオルを気遣いながら言った。

「エリオル…………。疑問は多いと思うけど、すべてが終わったらユグドラシルから話を聞こう!」

「分かったよ、アリス。セルヴァ―ト、僕たちも本気なんだ!必ずや届いてみせる!」

「いい目だ! かかってくるがよい、人の子らよ。」

パーティー
HP攻撃防御魔防習得
エリオル
(Lv95)
2260052003100900
アリス
(Lv95)
1940013007003100
ジェラルド
(Lv95)
2470050003100600
セティア
(Lv95)
1990017007002300
フォルト
(Lv95)
21600340015001500
Boss戦

セルヴァ―ト

属性:無属性  HP:249,000

攻撃力:10,000  防御力:1,800  魔法防御力:1,000

移動力:6  攻撃射程:5

技名 射程 効果
通常攻撃 5 単体に 無属性の物理ダメージ10,000
熱風 ALL 敵全体に 火属性の物理ダメージ8,000 + 素早さダウン
ブリザード ALL 敵全体に 氷属性の物理ダメージ8,000 + 20%の確率で凍結 + 防御力1,000ダウン
サンダーボルト ALL 敵単体に 100%の確率でマヒ + 敵全体に 雷属性の物理ダメージ8,000
グラウンドスマッシュ 2 単体に 土属性の物理ダメージ20,000
マッシヴオービット 10 円範囲(対象中心:5マス)に 無属性の物理ダメージ12,000 + 50%の確率でスタン + 吹き飛ばし7マス
ルインクラスト ALL 敵全体に 無属性の物理ダメージ15,000(防御無視) + 20%の確率で即死
※自身のHPが200,000以下になったターンと、100,000以下になったターンに、それぞれ一度だけ使用する。

「な、なんて強さだ…………でも、まだ…………」

エリオルが肩で息をしながら言った。

「ふむ。まあ、及第点といったところか…………」

セルヴァ―トの方は、まだまだ余力がありそうであったが、エリオル達の力を認めてくれたらしい。

その上でセルヴァ―トが改めて問う。

「お前たち、何のために空中庭園などを目指すのだ? まさか浮遊城に行きたい訳でもあるまい。」

アリスが恐る恐る前に出て説明した。

「ネイビャスという煉獄の使徒が、世界樹ユグドラシルを闇に封じ込めてしまったんです。ネイビャスは、自身の本体が空中庭園にあると言っていました。」

「なんと…………、ユグドラシルが後れを取ったいうのか…………。」

セルヴァ―トも流石に驚いたらしい。

「ユグドラシルとは一応、旧知の仲でもある。お前たちに力を貸すこともやぶさかではないが…………。それに、天上の世界において、奴らが身勝手に振る舞うのはやはり気に入らん。」

「それでは…………」

フォルトが期待のこもった眼差しを向ける。

「よかろう。我が翼は未だ衰えてはおらん。」

セルヴァ―トの返事に喜ぶエリオル達。

「だが、妙だな……。そのネイビャスとやらの行動、いまいち腑に落ちん。何者か、裏で手を引いている者がおるかもしれんな。何にせよ、急いだほうが良さそうだ。お前たち、敵の懐に飛び込む準備はできているのであろうな。」

「当たり前でしょう? そのためにここまで来たんだから!」

セティアの返事にセルヴァ―トは満足気に頷いた。

ヴェルト山脈上空

「すごいよ、アリス! 僕たち空を飛んでる!!」

「エ、エリオル…………。私、ちょっと怖いよ。すごい高さなんだもん…………」

エリオルとアリスの会話を聞いて、セルヴァ―トが声をかけた。

「ふむ。空中庭園は、まだ上空だ。振り落とされるでないぞ?」

フォルトが考え込むように言った。

「ネイビャスはいったい何を企んでいるんだろう。セルヴァ―トが言うように、やはり裏に何者かが居るのだろうか?」

セティアが答える。

「関係ないわ。私たちの邪魔をしたことを後悔させて、それから全部吐かせればいいだけのことよ。」

ジェラルドが呆れたように呟いた。

「セティア、お前それ悪役のセリフだぞ?」

伝説の竜の背に乗り、一同は賑やかに天空を翔けるのであった。

空中庭園

パーティー
HP攻撃防御魔防習得
エリオル
(Lv95)
2260052003100900
アリス
(Lv95)
1940013007003100
ジェラルド
(Lv95)
2470050003100600
セティア
(Lv95)
1990017007002300
フォルト
(Lv95)
21600340015001500
敵データ
  • パザティブ
  • アルラウネ
  • アビスプラント
  •   
  • 属性:無属性  HP:9,900

    攻撃力:7,000  防御力:400  魔法防御力:800

    移動力:6  攻撃射程:2

    技名 射程 効果
    通常攻撃 2 単体に 無属性の物理ダメージ7,000
    闇の瞳 2 闇属性 物理:単体に 50%の確率で魅了
    トルネード 10 円範囲(地点中心:5マス)に 風属性の物理ダメージ7,000 + 円範囲中心に吸い寄せ
    サクション 10 単体に 風属性の魔法ダメージ8,000 + 与ダメージの50%分HP吸収
      
  • 属性:無属性  HP:12,000

    攻撃力:6,600  防御力:600  魔法防御力:600

    移動力:4  攻撃射程:2

    技名 射程 効果
    通常攻撃 2 単体に 無属性の物理ダメージ6,600
    増殖 「アルラウネ」1体をフィールドに召喚する。
    眠り粉 3 円範囲(自身中心:3マス)に 無属性の物理ダメージ6,600 + 20%の確率で睡眠
    テラーボイス 3 円範囲(自身中心:3マス)に 無属性の物理ダメージ6,600 + 20%の確率で混乱 + 防御力500ダウン
      
  • 属性:無属性  HP:58,000

    攻撃力:8,200  防御力:800  魔法防御力:800

    移動力:4  攻撃射程:2

    技名 射程 効果
    通常攻撃 2 単体に 無属性の物理ダメージ8,200
    テンタクルウィップ 2 単体に 無属性の物理ダメージ10,000 + 50%の確率でスタン
    ミュートポイズン 2 単体に 100%の確率で毒 + 100%の確率でマヒ
    マインドブレイク 7 闇属性 物理:単体に 100%の確率で魅了
      

「ここが、空中庭園…………」

「きれい…………。こんなにきれいな場所が誰にも手入れされることなく残っているの?」

エリオルとアリスの言葉にセティアが答える。

「ここは、昔からずっとこうだと言われているわよ。誰の手も借りず、誰の目も楽しませることなく、ただそこに在り続ける。そんな場所よ。まあ、今はネイビャスの格好の根城になっているみたいだけど。」

セティアの言う通り、美しい庭園の奥からは、禍々しい瘴気が漂ってきていた。


庭園の最奥、いばらの棘と鮮やかな花に囲まれて、ネイビャスは佇んでいた。

「やあ、お兄さんたち。ほんとに来てくれたんだね~」

無邪気な言葉を紡ぐ姿は、見る者に驚きをもたらした。巨大な植物の中心、花の花弁の辺りに薄い膜に包まれたネイビャスの姿があった。その周りに、その他あらゆる植物の集合体のようなものが絡み合い、さらに、近づく者をいばらのカーテンが阻んでいた。

「辺りの植物と同化しているのか…………。これが、『本体』…………」

フォルトの呟きに続く者はいない。皆、ネイビャスの姿に圧倒されていた。

「さあ、いくよ! あはは~、この姿では手加減はできないからね!?」

ネイビャスの言葉を皮切りに、戦いが始まった。

Boss戦

アイヴィ・ヴェール(堅牢なる蔦壁)

属性:無属性  HP:100,000

攻撃力:3,500  防御力:1,000  魔法防御力:1,000

移動力:フィールドの外周に配置(攻撃可能部位)  攻撃射程:∞

技名 射程 効果
【荊の守り】 ※特殊能力
自身のHPが0になるまで常時発動
他の「攻撃可能部位」へのダメージと効果をすべて無効化する。
通常攻撃 単体に 無属性の物理ダメージ3,500
テンタクルウィップ 単体に 無属性の物理ダメージ5,000 + 50%の確率でスタン
養分吸収 ALL 敵全体に 無属性の物理ダメージ4,000 + 与ダメージの50%分HP吸収

プラント・ボディ(“緋”薔薇の園)

属性:無属性  HP:50,000

攻撃力:4,500  防御力:1,000  魔法防御力:1,000

移動力:フィールド端から移動しない(攻撃可能部位)  攻撃射程:7

技名 射程 効果
通常攻撃 7 単体に 無属性の物理ダメージ4,500
吸血 7 単体に 無属性の物理ダメージ6,000 + 与ダメージの50%分HP吸収
キラーニードル 7 単体に 無属性の物理ダメージ6,000 + 20%の確率で即死

プラント・ボディ(“白”薔薇の園)

属性:無属性  HP:50,000

攻撃力:4,500  防御力:1,000  魔法防御力:1,000

移動力:フィールド端から移動しない(攻撃可能部位)  攻撃射程:7

技名 射程 効果
通常攻撃 7 単体に 無属性の物理ダメージ4,500
ポイズンミスト 7 単体に 無属性の物理ダメージ6,000 + 100%の確率で毒
パラライズミスト 7 単体に 無属性の物理ダメージ6,000 + 50%の確率でマヒ

プラント・コア(「幻惑の妖花」ネイビャス)

属性:闇属性属性  HP:255,000

攻撃力:9,000  防御力:1,400  魔法防御力:1,400

移動力:フィールド端から移動しない(攻撃可能部位)  攻撃射程:10

技名 射程 効果
【理 超越せし生命力】 ※特殊能力
フィールドに『プラント・ボディ』が1体でも存在する限り常時発動
1ターンごとに、自身のHPを全回復する。
通常攻撃 10 単体に 闇属性の魔法ダメージ9,000
フローラルペイン 7 単体に 無属性の物理ダメージ12,000 + 攻撃力500ダウン + 防御力500ダウン
ポイゾナスブロウ 7 円範囲(対象中心:5マス)に 無属性の物理ダメージ8,000 + 50%の確率で毒
ミュ―トポイズン 2 単体に 100%の確率で毒 + 100%の確率でマヒ
サクション 10 単体に 風属性の魔法ダメージ12,000 + 与ダメージの50%分HP吸収
イーヴルスピリット 10 円範囲(地点中心:3マス)に 闇属性の魔法ダメージ10,000 + 50%の確率で毒 + 50%の確率で悪霊
クレイドルファンタズマ ALL 敵全体に 無属性の魔法ダメージ14,000 + 100%の確率で睡眠 + ステータスアップ解除

エリオルの剣がネイビャスの核を貫いた。

「うぁっ!!!」

衝撃で逆に弾き飛ばされるエリオル。

対するネイビャスは、すでに戦意も喪失したのか、残念そうに呟いた。

「あ~あ…………これであたしも『終わり』かぁ~。あたしたちには来世なんて無いからなぁ~」

「どういう意味?」

エリオルの問いに答えることもなく、ネイビャスは語り続けた。

「う~ん、こんなことならファティマのお願いなんか聞くんじゃなかったな~。あっちの方がよっぽど面白そうだったし…………」

「いい加減、答えてもらうわよ? あんたの目的は何だったの?」

セティアが語調を強めて問い詰める。

対するネイビャスは仕方がないといった様子で答えた。

「あたしの役割は、単なる時間稼ぎと目くらましだよ~。 世界樹を封印して騒ぎを起こし、世界の目をこの大陸東部に向けさせるってわけ。」

「目くらまし…………、まさか…………!」

フォルトが何かに気付いたようだ。

「みんな、急いだほうがいいかもね~。今頃、中央都市は大変なことになってるかもよ?」

「やはり、そういうことか。」

「フォルト、どういうことなんだよ!?」

ジェラルドが問いかける。

フォルトが答える前に、ネイビャスが突然笑い出した。

「あはははは! 見たかったな~、『聖王戦役の再現』! あたしは、も、う、眠い、や…………」

力無いネイビャスの言葉に呼応するように、ネイビャスの本体が力を失い、周囲の植物が枯れていく。

「じゃあ、ね…………。皆、は、死んでも……、煉獄の使徒、なんかに……生まれ変わっちゃ、駄目だよ…………。いいことなんか、無いから、さ…………。」

「何を言って…………」

「……………………」

ネイビャスは完全に消滅したようだ。後に残ったのは、枯れ果てた草花。妙に物悲しい雰囲気に辺りが包まれる。

「行きましょう、みんな。急いだほうが良さそうだわ。」

「セティア、いったい中央都市で何が起きているの?」

アリスの問いにセティアは答える。

「ネイビャスは、『聖王戦役の再現』って言っていたわよね。大陸東部に目を逸らさせておいて、中央都市を攻め落とす…………。まさに、聖王戦役の繰り返しなのよ。”煉獄の王”ガラテアが滅んだ今、煉獄の使徒どもをまとめ上げる存在が居るとも思えないけど…………。」

「いや、ひとつ思い当たるふしがある。」

フォルトが話に加わってきた。

「ネイビャスが口にしていた『ファティマ』という名前。どこかで聞いた覚えがあると思っていたのだけど、確か、ガラテアやヘルムートに次ぐ実力の持ち主である煉獄の使徒だ。ただ、戦役の際にも、人間との戦いには興味がなく、静観を決め込んでいたようだが…………。しかし、ファティマなら他の煉獄の使徒たちを束ねるには十分な存在だろう。」

「それじゃあ……!?」

「ああ、中央都市が危ない!」

断言するフォルト。そのまま言葉を続ける。

「まずは聖域に戻って、ユグドラシルの無事を確認しよう。その後は、セルヴァ―トの気まぐれさえ許せば中央都市までひとっ飛びなんだが…………。」

「今はそれにかけるしかなさそうだね。」

エリオルの返事を合図に、一同はセルヴァ―トの元へ駆け出して行った。

聖域都市クレテイユ

大神殿の執務室にて、最高位神官マティウスは、ヨハンに苛立ちをぶつけていた。

「ヨハン! 聖王教会の教会騎士たちは、まだ来ないのか!」

「先ほど急ぎの伝達で、兵を向かわせたとの知らせが参りました。しかし、アルセラ海を経由して迂回ルートをとるため、到着まであと1日ほどはかかる見込みのようです。」

「1日だと!? 聖王教会の者どもは事の重大さが分かっていない! 一刻も早く世界樹を救わねばならぬというのに…………」

その時、神殿の外から一人の神官が慌てた様子で走りこんできた。

「マ、マティウス大神官!!!」

「何事だ、騒々しい!」

「あ、あれを、ご覧ください…………」

神官は窓の外を指差した。

「な、なんだ…………あれは…………!?」

「竜、でしょうか…………」

「そんなことは、分かっておる!」

神官を怒鳴りつけたマティウスは、はっとして声を上げた。

「あの先は……、聖域ではないか!? こうしては居れん! これ以上、世界樹に害を及ぼされてたまるか!」

そう言うと、マティウスは聖域を目掛け駆け出していった。

「お、お待ちください…………、マティウス様!!!」

報告に来た神官が後を追う。

ひとり残されたヨハンは、聖域へ向かう竜を見つめ微笑んだ。

「皆さん…………。無事にやり遂げたのですね。」

聖域

エリオル達を背に乗せたセルヴァ―トが聖域に降り立った。

「久しいな、ユグドラシルよ…………。煉獄の使徒に後れを取り、人の子らの手で救われるとは。老いには逆らえないのではないか?」

「セルヴァ―トか。達者にしているようだな。お主の言う通りだ。わしとて、老いにはかなわんというものだ。そして、人の子らよ…………、世話になったな。わしの力が及ばぬゆえに、すまなかった。」

「いえ、あなたが無事で何よりでした。」

念話でユグドラシルに返事をするアリス。

同じくユグドラシルがセルヴァ―トに問う。

「セルヴァ―ト。しばし、時間をくれぬか? この者たちに伝えねばならぬことがある。」

セルヴァ―トが答える。

「私はかまわんぞ。急いでいるのは、むしろ、その者らのようだがな。」

「そうなんだ、ユグドラシル! 早くしないと、中央都市が危ないみたいなんだ!」

焦るエリオルに対し、ユグドラシルが威厳のある声で諫める。

「お主たちの進む未来は、世界の理に深く結びついているだろう。まずは、この世界の真実をその心に刻むがよい。」

セルヴァ―トが見守る中、静まり返った聖域でエリオル達は、以前聞きそびれた話の続きを聞くことになるのであった。


「そもそも、現世とピュルガトワールは『原初の世界』と呼ばれる、ただひとつの世界であった。そして世界は ”審理の女神” フェリスによって見守られていた。」

「”審理の女神”…………。その名も、確かアヌビスの口から語られたわね。」

セティアが口をはさむ。

「そうじゃ。我ら ”見守る者” とは異なり、そもそもこの世界の者ではない。神界より原初の世界に降り立ち、以来、大氷原の ”ミラージュの塔” から世界のすべてを見てきたのだ。」

「原初の世界は、ある日突然その歴史に終わりを告げることになる。世界は突如、二分されたのだ。わしらは ”天神の悪戯” と呼んでいるがな。これにより、現世とピュルガトワールは分断された異世界として存在することとなり、唯一、『ゲート』を通じてのみ行き来ができる状態となった。」

「しかし、誰でも自由に行き来できるわけではなく、そこには一定のシステムが生まれた。すなわち、現世で生を終えた魂がピュルガトワールに送られ、そこで魂が浄化され、新たな命となって現世に帰ることとなったのだ。」

「そんな!? ピュルガトワールにそんな役割が…………」

驚きを隠せないのはエリオルだけではない。

アリスがユグドラシルに問いかける。

「そ、それでは、煉獄の使徒とはいったい何なのですか!? ピュルガトワールからこちらへ渡ってくる魂は、浄化された新しい命なのでしょう…………? それなのに、なぜ…………」

「歪み、じゃ…………。」

ユグドラシルの声がいっそう低くなった。

フォルトが反応する。

「歪み…………、まさか、ひとつだった世界が二分されたがゆえに……?」

「そのとおりだ。二分された世界の歪みにより、ピュルガトワールにおいて負のエネルギーが増幅し、それによって『煉獄の因子』を持つ者が生まれることになった。煉獄の因子を持った者は魂の浄化が行われず、不完全な存在のまま現世に返される。これが『煉獄の使徒』じゃ。」

「以後、一定の割合の魂がピュルガトワールにおいて煉獄の使徒となり、現世に舞い戻るという世界の仕組みができあがったのだ。」

「そして、一度、煉獄の使徒となった魂は、その死と共に消滅し、永久に浄化されることはないという。」

「そうか…………、ネイビャスの奴が言っていたのは、そういう意味だったんだな…………」

ジェラルドの言葉で、一同は、消滅する直前のネイビャスの発言を思い出した。

「あ~あ…………これであたしも『終わり』かぁ~。あたしたちには来世なんて無いからなぁ~」

「じゃあ、ね…………。皆、は、死んでも……、煉獄の使徒、なんかに……生まれ変わっちゃ、駄目だよ…………。いいことなんか、無いから、さ…………。」

「あいつ…………。」

ジェラルドが、ぐっと拳を握った。

「待って! ネイビャスは、なぜそんなことを知っていたのよ?」

「恐らく、ファティマから聞いたのじゃろうな。」

「どういうことです?」

フォルトが珍しく問い詰めるように尋ねる。

「わしがファティマに煉獄の使徒の生い立ちを語ったのだ。」

「な、なぜ、敵にそんなことを…………?」

アリスの問いにユグドラシルは逆に問い返した。

「敵、か…………。煉獄の使徒は元は現世の魂じゃ。それは本当に敵なのか?」

「そ、それは…………」

アリスは口ごもってしまった。

アリスだけでない。世界の真実を知ってしまった今、この問いにはっきりと答えられる者は一人として居なかった。

話題を変えるようにユグドラシルが言う。

「さて、残る問題は、お主の父君のことじゃ。すでに語った通り、ヘルムートは元は現世の人間であり、ピュルガトワールにて煉獄の使徒となって現世に舞い戻った。そしてその死の直前に、お主の父、ロイの魂と共鳴し、同化したのだ。」

アリスが尋ねる。

「なぜ、父とヘルムートの魂は共鳴したのでしょう…………?」

「『子を想う気持ち、そして娘を残して現世を去る未練』じゃろうな。」

セティアが信じられないというように問いかける。

「ヘルムートの奴も、人間だったころにそんな経験をしているっていうの?」

「今のヘルムートしか知らぬお主たちには想像もできぬであろうがな……。これが真実じゃ。」

「ヘルムートは、父は、今どこに…………?」

アリスが悲痛な面持ちで疑問を口にする。

「ピュルガトワール神殿じゃ。」

その名に、セティアとフォルトが反応する。

「何ですって!?」

「ピュルガトワール神殿と言えば、現世とピュルガトワールの狭間…………、聖王ユージーン様が “煉獄の王” ガラテアを封印した地か……………」

「ロイであり、ヘルムートである、かの魂は、人間でも煉獄の使徒でもない非常に不安定な存在になっておる。そして、火の山の火口で命数を削られたことで、ついには現世に顕現しきれなくなった。今はまさに、“狭間”をさ迷っているのであろう。」

「そんな…………、お父さん…………。」

アリスが泣き崩れる。

「だが、あるいは……」

ユグドラシルが言葉を続けた。

「父君からヘルムートを引き離すことができれば、父君の魂は浄化され、正しい在り方に戻ることができるかもしれん。」

「ユグドラシル、ピュルガトワール神殿にはどうやったら行けるの?」

「エ、エリオル…………!?」

エリオルの問いにアリスが驚く。

「アリス、ここが僕たちの旅の正念場だよ。まずは、中央都市を救わなければいけないけど、それが終わったら、絶対にアリスのお父さんにもう一度会いに行こう! そして、聖王様と一緒にこの世界を救った本当の英雄を、アリスの手で悪い呪縛から解き放つんだ! 悪い夢はもう終わったんだよって、アリスが教えてあげなくちゃ!!!」

「エリオル…………。」

アリスの目から再び涙がこぼれた。だがそれはもう、悲しみからくる涙ではなかった。

「うん…………、うん! そうだよね……………。私たちなら、お父さんを助けられるよね…………。」

「どうやら、覚悟は決まったようじゃな。」

ユグドラシルが言う。

「ピュルガトワール神殿に行くには “審理の女神” に会いに行くといい。」

「審理の女神…………。大氷原のミラージュの塔に居るという女神か…………。だが、まずは中央都市で状況を確認する必要があるな。」

そう言うと、フォルトはセルヴァ―トを振り替えった。

セルヴァ―トが翼を広げて答える。

「やれやれ…………。私も、もう一仕事付き合ってやるとするか…………。煉獄の使徒どもの企みを打ち砕きに行くのであろう?」

「ありがたい。感謝します、古代竜セルヴァ―トよ。」

「うむ。何にせよ、急いだほうが良さそうだな? あちらから、騒がしい奴が近づいてきておるぞ。」

一同が振り向くと、参道の方から見知った顔がこちらに向かっているのが見えた。

「―――――お前たち、そこで何をしている!?」

マティウス大神官だった。

「おいおい、あのおっさん、今頃やってきたのかよ…………。」

ジェラルドが呆れた顔で言った。

「わしの方から、あの者には伝えよう。お主たちはセルヴァ―トと共に行くがよい。」

ユグドラシルの言葉に背を押され、一同はセルヴァ―トの背に乗り、聖域を後にするのであった。

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