第1部 第7章

alice

ルーアン

「…………」

エリオルはそれを口に出せない。エリオル自身もまだ動揺しているのだ。それが正しいとすれば、それはアリスにとってあまりに残酷な現実。

そうしている間に、アリスはいくぶん落ち着き、笑顔を見せた。

「ごめんね、エリオル……、私、なんか変なこと言ってたね。もう大丈夫だから……」

やはり、アリスは、あれが ■■ だと信じている。

「もう、よけいなこと考える必要はないよね……」

その上で、残酷な事実を受け止めようとしている。

「だって……」

そう、

「 ■■■■■ は( ■■■■ は)今度こそ ×××× だから。」

結局、エリオルは何も言えなかった。

ルーアン(3日前)

エルフの里を煉獄の使徒メリルから守ったエリオル達は、里のカルナス族長からの返事を伝えるべく、中央都市ロレーヌへ書状を送った。

そのまま一行は2日ほどルーアンで休息をとっていた。予定通りなら、次に向かう街は、大陸南部中央にある港湾都市ダンケルクである。

だが、宿屋で休む一行の元へ、予想外の人物が尋ねてきた。

デュークであった。

「皆さん、先日はお世話になりました。改めて、里を代表してお礼申し上げます。」

「はいはい、前置きはいいから……。そんなこと言いに来たんじゃないんでしょ?」

遠慮のない物言いのセティア。

「ええ。そろそろ、セティアの涙も乾いた頃かと思いまして。」

デュークも遠慮がない。

「あんた……、喧嘩売りに来たの?」

「まあまあ、セティア。それでデュークさん、お話とは?」

喧嘩腰のセティアをなだめながら、フォルトが尋ねた。

「はい。皆さんの腕を見込んで依頼したいことがあります。ジャングルにあるゲレの集落まで来ていただけないでしょうか。」

「 "ゲレの集落" 、自然と共に生き、独自の文化を持った一族の集落でしたか。」

フォルトが呟く。

デュークが頷いた。

「そうです。そこに行き、トトという巫女に会ってほしいのです。話はそちらでいたします。」

エリオル達は顔を見合わせた。特に異論は出なかった。

ゲレの集落

エリオル達一行は、デュークの案内で、ゲレの集落までやってきていた。

「ここです。」

デュークは一軒の家の前で止まった。それは、集落の他の家と同じで、木でできた家であった。ただ、他の家より大きく、さらに不思議な紋様が入り口に刻まれていた。

デュークが家の戸を叩く。

「トト! 居るのなら出てきてください。お客様です。」

しばらくの静寂の後、家の中からどたばたと音が聞こえた。

「うるさいのぅ~、わたしはまだ寝ているのじゃ……」

「偉そうに言うことですか! 今何時だと思ってるんです!?」

1人の少女が家から出てきて言った。

「おぉ! デューじゃないか! 久しぶりじゃの。」

「デュークです。覚えてください。」

「今日はなにか用か? デュー。」

「……まったく……。」

やれやれと言った顔でため息を吐いたデュークが、厳しい口調で続けた。

「あなたが巫女としての務めを果たさないから、集落の者が、ルーアンや里にまで泣きついてきているのです。」

「そ、そうかぁ……、それは大変じゃのぅ……。」

「他人事のように言わないでください! 集落の事は私の預かり知ることではありませんが、あなたは大切な役目を負った巫女なのでしょう?」

「そ、そうじゃ! わたしだってがんばっておるのだぞ!」

「さっきまで寝ていたのは誰でしたか……」

「き、昨日はがんばったのじゃ……」

「何をですか?」

「ぇと……、お祈り、とか……?」

「あなたが祈りを捧げているところなど、集落の誰も見たことがないそうですが?」

「む~……、いじわるを言うデューは嫌いなのじゃ……」

そして、トトと呼ばれた少女はエリオル達のほうを見て尋ねた。

「ところで、そちらの者たちは誰じゃ? 集落のものではないな?」

「 "火の山" の件で、あなたの助けになると思い、彼らに協力を頼んだのです。」

「おぉ~! それは頼もしいのぅ!」

「だから、他人事のように……。100年前、あなたの先祖は立派に役目を果たしたそうではありませんか!」

「ひいばあ様は特別じゃ! わたしには、ひいばあ様のような力はないのじゃ……」

そして、トトは悲しげに続ける。

「それなのに、集落の者どもは、修練が足りんだの、務めを果たせだの……」

「わたしだってがんばってるのじゃ~!!!」

「まったく、あなたも、もう14になるんです! エルフの里だったら一人前の大人として生きていく頃ですよ。」

「いいのぅ……。わたしもエルフの里で暮らしてみたいぞ!」

「おぞましいことを言わないでください。あなたが里の者だったら、とっくに追い出されています……」

「あの……、そろそろ依頼の話を……」

思わず、アリスが口をはさんだ。

デュークが気を取り直して言った。

「これは失礼。トトと話していると、どうも話が逸れてしまいます……」

そして、デュークは再び真剣な顔でトトに言った。

「 "火の山" と "不死鳥" の逸話を彼らに……。きっと、助けになってくれます。」

「むぅ、そうか……、わかったのじゃ……」

そして、トトはゲレの集落に伝わる逸話を話し出した。


ゲレの集落では、昔から "火の山"(外界ではオーヴェルニュ火山と呼ばれる)を信仰の対象としてきた。

火の山のふもとにあるゲレの集落は、温暖な気候に恵まれ、人々の暮らしは栄えた。

だが100年前、突然、火の山を中心に空が暗雲に包まれた。同時に、火の山から高くいななく鳥の声が聞こえてくるようになった。

集落には、火の山に宿る "不死鳥" の言い伝えがあった。人々は、空の異変を不死鳥の怒りと考えるようになった。

集落の長は、トトの曾祖母である時の巫女ユティを火の山に遣わした。

巫女ユティは、火の山にて不死鳥と対話し、その怒りを鎮めたという。そして不死鳥は永き眠りについた。集落では代々、巫女が祈りを捧げ、平和な時が続いた。

ところが、100年の時が経った現代、つい先日のことである、火の山の周囲の空は再び暗い雲に包まれた。

集落の長は、再び目覚めた不死鳥を鎮めるように、当代の巫女であるトトに命じたのであった。


「ところが当代の巫女は、寝てばかりで祈りも捧げず、使命もほったらかすようなダメ巫女だったのです……。」

「デュー! 余計な言葉を付け足すでない!」

デュークとトトのやり取りを見ていたエリオルが尋ねた。

「今回の依頼って、その火の山に行って不死鳥を鎮めてくることなんですか?」

デュークが答える。

「正確には、トトを火の山まで連れて行って、事を成し遂げるのを見届けて欲しいのです。」

トトがおずおずと聞いた。

「わ、わたしも行かないと駄目か?」

「当たり前でしょう! 対話の後、最後に不死鳥を鎮めるのは当代の巫女たるあなたの役目です。」

「デューは、デューは着いてきてくれるのか?」

「それはできません。私にはエルフの里の掟があります。里の外で余計な干渉をすることは許されていないのです。」

「だが、デュー……」

「だから代わりに彼らに依頼を出したのです。彼らの実力は私が保証します。これでも重い腰を上げないというのなら、あなたのひいお婆様の名に傷がつくことになりますよ。」

「わかったのじゃ……、わたしだってゲレを代表する巫女じゃ……。ちゃんと、やってみせる。」

「それでいいのです。ようやくまともな顔になりましたね。」

デュークが初めて満足気に微笑んだ。

そして、アリスに向き直り、改めて依頼する。

「アリスさん、教皇殿の娘御たるあなたを見込んで、正式にお願いをいたします。火の山の異変解決に力を貸してください。他の皆さんも、どうかお力添えを……」

アリスをはじめエリオル達は、これを快く承諾したのであった。

火の山(オーヴェルニュ火山)

パーティー
HP攻撃防御魔防習得
エリオル
(Lv65)
1570037002100600
アリス
(Lv65)
1340010005002100
ジェラルド
(Lv65)
1720035002100400
セティア
(Lv65)
1380012005001600
フォルト
(Lv65)
15000240010001000
敵データ
  • フレイムソード
  • マグマロック
  • シャドウ
  • イフリート
  • ファイアドラゴン
  •   
  • 属性:火属性  HP:8,000

    攻撃力:4,400  防御力:400  魔法防御力:800

    移動力:5  攻撃射程:2

    技名 射程 効果
    通常攻撃 2 単体に 火属性の物理ダメージ4,400
    フレイムエッジ 2 単体に 火属性の物理ダメージ5,500
    回転斬り 3 円範囲(自身中心:3マス)に 無属性の物理ダメージ4,000
      
  • 属性:火属性  HP:6,600

    攻撃力:4,000  防御力:1,000  魔法防御力:0

    移動力:4  攻撃射程:2

    技名 射程 効果
    通常攻撃 2 単体に 火属性の物理ダメージ4,000
    イラプション 10 単体に 火属性の魔法ダメージ5,000
    フレイムウォール 単体に 火属性 魔法:1ターンの間、味方全体に 防御力500アップ
      
  • 属性:無属性  HP:8,000

    攻撃力:4,200  防御力:7,400  魔法防御力:200

    移動力:6  攻撃射程:2

    技名 射程 効果
    通常攻撃 2 単体に 無属性の物理ダメージ4,200
    呪い 10 単体に 無属性の物理ダメージ4,200 + 100%の確率で石化
    影縛り 2 単体に 無属性の物理ダメージ4,200 + 100%の確率でマヒ
      
  • 属性:火属性  HP:12,800

    攻撃力:5,000  防御力:800  魔法防御力:800

    移動力:7  攻撃射程:3

    技名 射程 効果
    通常攻撃 3 単体に 火属性の物理ダメージ5,000
    地裂撃 7 直線範囲(幅:3マス)に 土属性の物理ダメージ4,600 + 50%の確率でスタン
    ファイアボム 5 円範囲(対象中心:5マス)に 火属性の物理ダメージ5,000 + 防御力300ダウン + 吹き飛ばし5マス
    熱風 ALL 敵全体に 火属性の物理ダメージ4,000 + 素早さダウン
    バーニングフォース 10 直線範囲(幅:5マス)に 火属性の魔法ダメージ4,600 + 攻撃力300ダウン
      
  • 属性:火属性  HP:122,000

    攻撃力:6,000  防御力:1,400  魔法防御力:1,000

    移動力:6  攻撃射程:3

    技名 射程 効果
    通常攻撃 3 単体に 火属性の物理ダメージ6,000
    ドラゴンファング 3 単体に 無属性の物理ダメージ10,000 + 攻撃力300ダウン
    ぶちかまし 7 直線範囲(幅:5マス)に 無属性の物理ダメージ7,000 + 吹き飛ばし5マス + 対象方向へ移動7マス
    火炎烈風 ALL 敵全体に 火属性の物理ダメージ6,000
    ファイアブレス 10 直線範囲(幅:3マス)に 火属性の物理ダメージ8,000
    クリムゾンフレア 10 単体に 火属性の魔法ダメージ10,000 + 50%の確率で混乱 + 50%の確率で暗闇
      

デュークに見送られ、エリオル達は火の山に足を踏み入れた。

「それにしても驚いたな……。火の山のふもとまで腐海を通って来たっていうのに、何ともないんだからな。」

ジェラルドが感心したように言った。

一同は、トトの巫女としての力で、腐海に体力を奪われることなく火の山にたどり着いたのである。

「ふふんっ♪ わたしだってこのぐらいの神通力は使えるのじゃ。」

「居眠り巫女さんがよく言うわ。」

「セ、セティアっ……そんなこと言っちゃだめだよ……」

セティアが軽口を叩き、アリスが慌ててたしなめる。

「ま~ま~、そう誉めるでない♪」

トトは聞いていないのか、上機嫌だった。

「彼女は大物だね。見たところ、秘めている力の半分も出しきれていないようだけど。」

「そんなことまで分かるの、フォルト?」

エリオルとフォルトが後ろのほうでトトのことを眺めながら話していた。

すると、突然振り替えって、トトがエリオルのほうに駆けてきた。

「ところで!」

「わっ!?」

突然話しかけられてエリオルは驚いた声をあげる。

トトは顔をキラキラ輝かせながら聞いてきた。

「エリオルは、アリスとセティアのどっちが好きなのじゃ?」

「え、えぇっ!」

エリオルはもう一度、驚いた声をあげた。

「そんなこと急に聞かれても……。アリスは大事な幼馴染みだし、セティアも大事な仲間だし……。」

タジタジと返答に困るエリオル。心なしか女性陣の視線が痛い。

「そうかそうか、なら、わたしにもまだチャンスはあるわけじゃな。」

そう言うと、楽しそうにトトは駆けていった。

「おやおや、どうやら本当に大物のようだ。」

「冷静に言わないでよフォルト……」

エリオルは真っ赤になってフォルトにぼやいた。

少し離れたところでセティアがアリスに言った。

「お子様ね……。いいの? アリス? 今のうちに『エリオルは私のだ』って言っておかないと、あの子に取られちゃうかもしれないわよ?」

「そ、そんな……、でもエリオルは私のこと幼馴染みとしか思っていないみたいだし……」

アリスも真っ赤になって答える。

「う~ん。こっちも、まだまだお子様かしらね。」

セティアが呆れたといったように言う。

「もう、からかわないでよ、セティア……」

アリスはそう言いながら、ちらっとエリオルのほうを見た。

たまたまエリオルもアリスのほうを見て、目が合ってしまう。途端に再び真っ赤になる二人。

ジェラルドがフォルトにぼやいた。

「なあ、フォルト。俺たち蚊帳の外じゃないか?」

「ははっ、そのようだね。」

たわいもないやり取りの末、一同は火の山の火口へと辿り着いた。

火の山(オーヴェルニュ火山)/ 火口

「すごい熱気……。ここに不死鳥がいるの? トト?」

エリオルが、汗を拭いながら尋ねる。

「言い伝えによればな。わたしも、ここに来たのは初めてじゃ」

「不死鳥に会うにはどうすればいいの……?」

アリスの問いに、トトはあまり自信無さげに答える。

「母さまから、祈りの言葉は教わっておる。まあ、やってみるかのぅ。」

その時、そこに居るはずのない者の声が火口に響いた。

「悪いが、それは後にしてもらおうか……」

言葉と共に、漆黒の炎がトトたちと火口との間に揺らめき、黒衣の男が姿を見せた。

「お前! あの時死んだはずじゃ……!?」

ジェラルドの驚きに対し、黒衣の男は静かに答えた。

「ふっ、あれ程の事で、我が死んだと思うとはな……」

「あいつ、前とは何か様子が違うわね。」

その違和感を感じ取ったのはセティアだけではなかった。

それに応じるように、黒衣の男は語り出した。

「貴様らには礼を言わねばな……。我は "ヘルムート" 。貴様らとの戦いの後に、ようやく記憶を取り戻した。」

その名に改めて衝撃を受けるアリス達。

構わずに、ヘルムートは続ける。

「すべて思い出したぞ……。そこの小娘は、我の力を奪った憎き人間の娘だな。あの時の屈辱……、たかが人間ごときが……。決して許しはせんぞ。」

そして、

「貴様には死んでもらう……」

ヘルムートの放った漆黒の炎がアリスを直撃した。

はずだった……

ヘルムートが炎を放つよりひと足早く、エリオルが両手を広げて前に立ち、アリスを庇っていた。

「っ……!!!」

「エリオルーーー!!!」

アリスの悲痛な叫びが、火口にこだまする。炎に包まれて倒れるエリオルに駆け寄って、必死に声をかける。

「エリオル、エリオルっ……!! いや、嫌ぁあああーーー!!!!」

「ふん、馬鹿なやつめ……」

ヘルムートの冷酷な呟き、仲間たちの駆け寄ってくる声、それらがだんだん遠のいていき、エリオルの意識は黒い炎へと吸い込まれていった。

追憶の光景(サントラル平原)

時は夜更け。後に『聖王戦役』と呼ばれる大戦のさなか。サントラル平原の片隅に広がる人間の兵たちの天幕。その一角で、静かに会話を交わす者たちがいた。

「ところで……」

アイリーンがロイに尋ねた。

「良かったのですか? アリスを天幕に連れてきて?」

アイリーンの目は、ロイに抱き上げられているアリスに注がれていた。

「ああ、ロレーヌの市内も、もう安全とは言えないからな。ここのほうが、敵も手出しできないさ。」

ロイは、幼いアリスをあやしながら、やさしく答えた。

「しかし、……」

アイリーンは不満そうだった。

そこで、ロイは駄目出しの一言を放った。

「おいおい、ここにはユージーンの旦那が居るんだぜ?」

この言葉は効果覿面だった。

「ええ……、まあ、そうですね……ユージーン様がいらっしゃるなら……」

アイリーンはぶつぶつと言いながらも納得したようだった。

しばらく、静かな時が過ぎる。陣の中央に居るユージーンは何か考え事をしているようだった。アイリーンは平原の地図を見ながら、戦況を確認している。ロイは鎧姿のままアリスの遊びに付き合っていた。他には、見張りの兵が数名いるだけだった。

そんな時間がいつまでも続くかと思われた頃、不意に低い男の声が響いた。

「ふん、傲慢で怠惰な人間共め……」

次の瞬間、漆黒の炎が天幕内に揺らめいた。

「何者です!」

アイリーンが魔力を展開させる。

「遅いな……小娘が……」

「!?」

男の放つ漆黒の炎がアイリーンを弾き飛ばした。同時に、見張りの兵たちが成す術もなく打ち負かされる。

「アイリーン……!」

「だ、大丈夫です……。私よりもユージーン様を……」

ロイの声に気丈に返すアイリーン。

一方、男のほうは真っ直ぐユージーンに向かっていった。

「その炎、ヘルムートか。」

静かにユージーンが呟いた。

「だったら、どうだと言うのだ……」

ヘルムートは否定しなかった。

ユージーンは普段見せないような強い気迫で答えた。

「ならば……、お前はここで倒す……!」

ユージーンとヘルムートの熾烈な戦いが始まった。

ヘルムートの放つ無数の炎弾を、剣による霊圧ですべて無効化するユージーン。次第にユージーンの周りの霊力が高まっていく。

『セイントアウラ』
精霊の力を借り、体の周りに霊力による不可視のバリアを張る、ユージーンの術式である。

「ほう、なるほどな……」

ヘルムートが呟く。

「そこが、弱点か……」

ヘルムートが両手に炎を凝縮させ、ユージーンのある一点を狙う。剣を持つ右手。霊力を剣から集めて吸収し、体へと受け渡す起点。

爆炎がユージーンの右手に向かい放たれようとする。

「(一時的に右手に霊力を集中させるか……、余波を受ける体のほうは無事では済まぬが、ロイやアイリーンらを危険にさらすわけにもいくまい……)」

「ふっ……」

覚悟を決めるユージーンに対し、ヘルムートから笑いが漏れる。

そこに割って入る者が居た。

「……させるかよ……」

ロイだった。

「ロイ……!?」

「愚かな……」

ロイの魔力が、全力で展開される。

「蒼龍陣・二の型!」

ロイとヘルムートを囲むように障壁が広がる。その中で、行き場を無くした炎が、今にも爆発しそうに燃え上がる。

「馬鹿め……そんなことをすれば貴様も!」

「はっ、ユージーンの旦那に死なれるわけにはいかないんだよ! 旦那は俺たちの希望だからな。」

ユージーンも、ロイを止めようと叫ぶ。

「よせ! ロイ!!!」

その言葉も虚しく、漆黒の爆炎がロイとヘルムートを包んで爆発した。障壁の中で何倍にも増幅された力が暴れ狂う。

「…………」

一瞬、その場の誰もが閃光に身をすくませた。

すぐに、ユージーンが霊圧で視界を切り開く。

アイリーンはアリスを庇いながら、体を伏せている。

爆発の後に残されたのは、ぼろぼろの姿で横たわるロイの姿だけだった。

「はぁっ、はぁ……。何とか倒せたか……。ぐっ……。」

「ロイ、すまぬ……、私のために……」

ユージーンが拳で強く地面を叩いた。

「おとーさんっ!!!」

アリスが駆け寄ってきた。ロイが残る力を振り絞って、アリスの頭をなでる。

「ははっ、お前はセシルが残した俺の宝だ……お前を守るためだったら俺は何でもできる……」

「ロイ、傷が開いてしまいます! 今、治癒魔法をかけますから!」

アイリーンもロイの元に来て、魔力による治癒を始める。

「おいおい、娘との別れの挨拶を邪魔すんなよ……。助からないことぐらい……自分で分かってるっての。」

「おとーさん……」

ロイの周りには次第に漆黒の炎が広がっていった。ユージーンがうなるように言う。

「後発性の魔法か……。ヘルムートの死と共にロイに対して発動しているのか……! すまぬ、ロイ……私のせいだ……」

「そんな……、ロイ! 気を確かにもってください。」

アイリーンも悲痛な声をあげる。

「ったく……、そんなに大声で言わなくても聞こえてるぜ……。 なあ、アイリーン?」

「な、なんですか?」

急に真面目な声で名を呼ばれ、驚くアイリーン。

「アリスを……、……頼む。」

それがロイの最後の言葉になった。漆黒の炎はロイを包んでいっそう強く燃え上がり、やがて何事もなかったかのように消え去った。

「おとう、さん……?」

まだ幼いアリスには、何が起きたのか分かっていないようだった。

「やだ、やだよ……、おとうさん、どこいったの……?」

アリスはついに泣き出してしまった。

「おとうさん、わたし、ここにいるよ……、かえってきてよ……、おとうさん! おとーさん……っ!!!」

思わず、自分も涙を流しながらアリスを抱き締めるアイリーン。

「ロイ……、アリスは、私が……必ず……」

この夜、ガラテアに次ぐとされた煉獄の使徒ヘルムートは戦場から姿を消した。

一人のかけがえのない命を代償に。

火の山(オーヴェルニュ火山)/ 火口

「…………!」

「エリオル……!」

「目を覚ましたのじゃな!」

エリオルが体を起こすと、アリスとトトが心配そうに覗き込んでいた。

ジェラルドたちは、エリオルを守るように、ヘルムートとの間に立ちふさがっていた。

エリオルの体は、不思議なオーラに包まれていた。

「これは……、精霊の力が渦巻いておる……。エリオルを守っているようじゃ……」

トトが不思議そうにエリオルを見て呟いた。

エリオルの様子を見て、ヘルムートも表情を変えた。

「貴様……、その力……」

そして殺意を剥き出しにして言った。

「貴様も、生かしておくわけにはいかんようだな……。」

再び戦闘が開始されようという時、火口から、突然鳥のいななきが聞こえた。

一瞬、火口の熱気が何倍にも膨らんだように感じられ、次の瞬間、火を纏った巨大な鳥が姿を現した。

「不死鳥じゃ……」

トトの声には畏怖とあこがれのようなものが混じっていた。

不死鳥は、一声鳴くと、トトに向けて爪を振りかざした。

「危ないっ!!!」

フォルトが慌てて障壁を張り、不死鳥の一撃を反らす。

「すまん……。助かったぞ、フォルト……。」

トトが礼を言い、体勢を立て直す。

不死鳥に身構える一同に対し、ヘルムートはあからさまに苛立ちをあらわにしていた。

「たかが霊鳥ふぜいが……」

ヘルムートが炎弾で不死鳥を威嚇した。

その上空からヘルムートに狙いを変えた不死鳥が襲いかかる。

「邪魔をする者は……」

不死鳥の爪がヘルムートにかざされた。

「排除するだけだ……」

ヘルムートの漆黒の炎が、不死鳥を包んで燃え上がる。

襲いかかろうとしていた不死鳥は、不意を打たれ、ヘルムートの炎に包まれて苦しみにもがきながら、火口へと落ちていった。

「嘘だろ……、あいつ、不死鳥を一撃で……」

「邪魔されたことに相当お怒りのようね。エリオル……、もう立てるかしら? あんたを守って戦っている余裕はないわ! 全員で全力で挑むわよ!」

「分かった!」

答えるエリオルの身体は、未だ精霊のオーラに包まれていた。

「今回もか……。」

エリオルを見て独り呟くフォルト。

「何か言った、フォルト?」

「いや、何でもないさ、セティア。」

そして、改めて全員に号令を出すフォルト。

「小細工の通用する相手じゃない。数の利を生かして攻め落とすんだ!」

「了解!」「はいっ!」「よしっ!」「わかってるわよ!」

「わ、わたしはうしろで応援しておるぞ~……」

トトからは弱々しい返事が帰ってきた。

ヘルムートは、低く凍りつくような声で言った。

「ふん……。一人として生かしては帰さん……」

パーティー
HP攻撃防御魔防習得
エリオル
(Lv50)
1570037002100600【セイントアウラ】
※特殊能力
自身の受ける属性ダメージ(無属性以外/物理・魔法を問わない)を半減する。
※この戦闘でのみ使用可
アリス
(Lv50)
1340010005002100ライトヒール、ハイウェーブ
ジェラルド
(Lv50)
1720035002100400朱雀陣
セティア
(Lv50)
1380012005001600エクスプロージョン、プラズマスフィア
フォルト
(Lv50)
15000240010001000トライデントシュート、プリズムライト
Boss戦

ヘルムート

属性:闇属性  HP:180,000

攻撃力:6,500  防御力:600  魔法防御力:1,600

移動力:5  攻撃射程:10

技名 射程 効果
通常攻撃 10 単体に 闇属性の魔法ダメージ6,500
ダークマター 10 円範囲(対象中心:5マス)に 無属性の魔法ダメージ6,000 + 移動力ダウン + 円範囲中心に吸い寄せ
ファイアストーム ALL 敵全体に 火属性の魔法ダメージ7,500
エクスプロージョン 10 敵単体に 火属性の魔法ダメージ13,500 + 100%の確率でスタン
フレイムバリア 1ターンの間、自身に 防御力2,000アップ + 1ターン後に円範囲(自身中心:5マス)に 火属性の魔法ダメージ6,000
邪念波 ALL 敵全体に 闇属性の物理ダメージ5,000 + 攻撃力or防御力or魔法防御力300ダウン
ヘルゲイザー 3 円範囲(自身中心:3マス)に 闇属性の物理ダメージ10,000 + 50%の確率でスタン + 20%の確率で即死
シュヴァルツフォーチュン 10 闇属性 魔法:「3ターン後に即死」を付与(確定/治癒不可)

戦いの最中、ヘルムートが一瞬の隙をついて、アリスを炎の結界に閉じ込める。

「きゃあっ!!!」

「アリス!!!」

アリスを捕らえた結界は、漆黒の炎を揺らめかせながら、ヘルムートに付き従うように浮かんでいた。

「手間をかけさせてくれる……。そこで大人しく燃え果てるがいい!」

そしてアリスを包む結界が炎で満たされる。

しかし、同時にヘルムートに異変が表れた。

「!? ぐっ!! がっ!!? 何だ……? いったい何だ……我の中で疼く、この意志は……!?」

そう言うと、ヘルムートは急に苦しみだした。同時に、アリスを捕らえていた炎の結界が崩壊する。

「アリス、今のうちにこっちに……!」

エリオルがアリスに向かって叫ぶ。

「エリオ……」

皆の元に駆け出したアリスの言葉が遮られる。

「!?」

一瞬のできごとであった。不死鳥が火口から再び姿を見せ、アリスの足元の岩を砕いたのである。

アリスが足を踏み外し、体をよろめかせる。そのまま、火口に落ちそうになるアリス。

しかし、予想外の出来事がおきた。

火口へと足を滑らせたアリスを庇ったのはヘルムートだった。

「!?……、あなた、どうして……?」

助けられたアリスは、驚きを隠せなかった。しかし、ヘルムートの次の言葉にアリスはさらに驚愕した。

「オマエハ、セシルガ残シタ俺ノ宝ダ……お前ヲ守ルタメダッタラ俺ハ何デモデキル……」

そしてヘルムートが、アリスをエリオルたちのほうへ突き飛ばす。反動でヘルムート自身は崩れ落ちる足場に飲まれていった。

間一髪、仲間たちの元に戻れたアリスは、ポツリと呟いた。

「お父、さん……?」

ヘルムートは、崩れて岩となった足場と共に、火口へと落ちていった。

ヘルムートの言葉が聞こえなかった仲間たちは、ただただ不思議そうだった。

「あいつ、どうしてアリスを助けたりしたのかしら?」

セティアが疑問を口にする。

「分からない、だけど今は……」

そう言ってフォルトが、槍を不死鳥に向けた。

「戦うしかなさそうだ。」

Boss戦

フェニックス

属性:火属性  HP:157,900

攻撃力:5,200  防御力:400  魔法防御力:800

移動力:10  攻撃射程:3

技名 射程 効果
【溶岩床】 ※特殊能力
フィールド上の『溶岩床』上に居る味方ユニットは、ターン終了時に火属性の物理ダメージ500を受ける。
このダメージは軽減できない。
通常攻撃 10 単体に 火属性の物理ダメージ5,200
プロミネンス 7 単体に 火属性の物理ダメージ6,000 + 防御力300ダウン + 魔法防御力300ダウン
フレイムダンス 7 直線範囲(幅:3マス)に 火属性の物理ダメージ4,500 + 50%の確率で混乱
鳳凰炎舞 7 円範囲(自身中心:7マス)に 火属性の物理ダメージ8,500 + 50%の確率で暗闇 + 吹き飛ばし5マス
不死鳥の羽 フィールド上の「ヘルハウンド」が4体未満なら、合計4体になるまで召喚する。

ヘルハウンド

属性:火属性  HP:7,500

攻撃力:3,200  防御力:400  魔法防御力:400

移動力:5  攻撃射程:2

技名 射程 効果
通常攻撃 2 単体に 火属性の物理ダメージ3,200
鬼火 5 単体に 火属性の物理ダメージ2,400 + 20%の確率で悪霊
バーニング 10 単体に 火属性の魔法ダメージ3,000 + 攻撃力300ダウン

不死鳥が、空高く舞い上がり、一声、かん高い鳴き声をあげた。

次の瞬間、不死鳥の体が大きな炎に包まれた。炎は激しく燃え上がり、それが次第に薄れていく。炎が煌めくように消えて無くなり、澄んだ青空が広がった。

「空が……」

エリオルが思わず声を上げた。

フォルトがそれに続く。

「不死鳥が再び、眠りについたか……。これで、以来は達成かな。」

澄みきった空を眺める皆の顔は、空と同じくらい晴れやかであった。

ただひとり、アリスを除いて。

アリスの頭の中では、先ほどのヘルムートの言葉が何度もリフレインしていた。

そこに、突然まばゆい光と共に、不死鳥が再び姿を見せた。その姿からは、不思議と敵意は感じられなかった。

トトが思わず語りかける。

「お主、眠りに着いたのではなかったのか?」

不死鳥がそれに答える。

「人の子よ……。そなたは巫女ユティの子孫ですね。」

「ひいばあ様を、覚えておるのか?」

「ええ……、100年前、ピュルガトワールの瘴気に蝕まれた私を浄化してくれたこと、今でも覚えていますよ。」

「そして、今回も……。当代の巫女トトよ、感謝します。」

「わ、わたしは何もできなかったのじゃ……」

「あなたは、自分に自信がないのですね、トトよ……」

「そうじゃ……、わたしは、ひいばあ様や、おばあさま、母さまのような力はないのじゃ……」

「それはどうでしょう? トト、手をこちらに……」

「こ、こうか?」

恐る恐る手を差し出すトト。

すると不死鳥は、細かい光の粒子となってトトの手を伝い、全身を覆う光となった。

「暖かい……、この力は……」

「私を身に宿せるということは、あなたには充分に巫女としての素質があります。これからは、私があなたに力を貸しましょう。」

「そうか……。不死鳥よ、感謝するぞ。これから、よろしくお願いするのじゃ。」

「ええ、トト。」

「これで、一件落着かしらね。ふふっ、デュークのやつに貸しができたわ。」

「笑顔が黒いよ、セティア。」

そう言いながら、フォルトは意味あり気な目でエリオルをさりげなく観察していた。

「(精霊の力による障壁……、あの方が得意としていたとされる術式に酷似している……、か。)」

当のエリオルは、もうオーラを身に纏うこともなく、呑気にトトやジェラルドとはしゃいでいた。

フォルトの懸念、アリスの困惑……。様々な想いを包むように火の山の空は晴れ渡っていた。

ルーアン

アリスの様子がおかしい。エリオルがそう気付いたのは、火の山の一件を終えた夜のことだった。皆の前では気丈に振る舞っているが、どこか元気がなく、何か考え込んでいるような素振りが見て取れた。

次の日の朝、エリオルはこっそりアリスに尋ねてみた。

アリスは、自分でもよく分からないと言って、エリオルに説明した。

「どういうこと?」

エリオルが尋ねる。

「ヘルムートが私を助けた時に言ったの。『オマエハ、セシルガ残シタ俺ノ宝ダ……お前ヲ守ルタメダッタラ俺ハ何デモデキル……』って。」

「それって……!?」

驚くエリオル。それはまぎれもなく、あの夢の中でロイが死の間際に残した言葉。

アリスは考えるのに精一杯のようで、エリオルの動揺に気付かない。そして、そのまま言葉を続けた。

「ううん……、きっと私の思い過ごしか勘違い……、お父さんの言葉だってほとんど忘れかけていたんだし……」

違う、違う……アリス、それは勘違いじゃない。あの夢が正しければ、それは確かにアリスの父ロイが残した言葉だ。一語一句違っていない。こんな偶然があるはずがない!

エリオルはそれを口に出せない。エリオル自身もまだ動揺しているのだ。それが正しいとすれば、それはアリスにとってあまりに残酷な現実。

そうしている間に、アリスはいくぶん落ち着き、笑顔を見せた。

「ごめんね、エリオル……、私、なんか変なこと言ってたね。もう大丈夫だから……」

やはり、アリスは、あれがロイだと信じている。

「もう、よけいなこと考える必要はないよね……」

その上で、残酷な事実を受け止めようとしている。

「だって……」

そう、

「ヘルムートは(お父さんは)今度こそ死んだんだから。」

結局、エリオルは何も言えなかった。

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