第1部 第2章

alice

トゥール大聖堂・アイリーンの執務室

教会都市トゥールを挙げての式典は無事に終わった。合わせてルルド村への弔いの言葉も教皇の口から直々に告げられ、人々は煉獄の使徒への恐れと教会への信望をより確固たるものとした。

リースは「これ以上、わたくしが人間と慣れ合う義理はありませんわ。」と言って街を後にした。
魔族と人間の間には未だ深い溝がある。聖王戦役の折、一時的に手を組んだとはいえ、もともと容易に相容れるものではなく、両者の交流が深まることはなかった。リースにとってもそれは例外ではなく、そっけない態度もごく当たり前のものに感じられた。

リズはトゥール市内の孤児院に預けられた。まだ事情も呑み込めないまま、ただ黙って孤児院のシスターに手を引かれていく姿はとても切ないものであった。不安と疑問がないまぜになった表情で最後に振り返ったリズの顔は、エリオル達の脳裏に焼き付いて離れなかった。

式典の間も、アリスの表情は思いつめたように硬いものであった。エリオルやジェラルドもアリスにかける言葉が見つからず、「一人にしてほしい」というアリスの言葉に従う他なかった。

式典の終わった夜、アリスはアイリーンの執務室を訪ねていた。2人の他には誰もいない部屋で、静かな沈黙がしばしの間続いた。アリスは黙ったまま顔を上げない。それを優しく、見守るアイリーン。

先に口を開いたのはアイリーンであった。式典とその準備に忙殺されていたとは思えない穏やかな、疲れを見せぬ表情で、アイリーンはアリスに言葉をかけた。

「ルルド村の一件は、教会騎士団がもっと早く動いていれば防げていたかもしれません。あなたにも辛い思いをさせましたね、アリス……」

「……………」アリスは俯いたまま答えない。

「知らせを受けた時は気が気ではありませんでした。しかし、あなた達が無事で本当に良かった。」

アリス達の身に何もなかったことに心から安堵しているようであった。

「聖王戦役以来、ピュルガトワールの力は弱まったとはいえ、使徒の脅威は去ったわけではありません。一人でも多くの民を守らねば。私も、まだまだユージーン様には及びませんね。」

自ら背負う責務を自身に刻むように言葉を紡ぐアイリーン。その言葉には、覚悟と、未だ未熟な自身への戒めが込められているようであった。

ずっと黙っていたアリスが静かに口を開く。

「義母さま。私は煉獄の使徒によってお父様を亡くしました。でも、私には義母さまが居てくれた。だけど、あの子は……あの子は、家族と村のみんなを一瞬にして奪われてしまったんです。」

一度口を開くと、言葉が次々に溢れてくる。

「こんなことが、今も世界中で起こっているのですか? あんな思いをする子たちが、今も世界中に居るのですか? 私は何も知らなかった……義母さまが居てくれて、友達にも恵まれて、お父様の生まれ故郷であるシノン村で何不自由なく過ごしていて……」

途中から嗚咽が混じり声が声にならなくなっていた。目からこぼれる涙を拭うこともなく、しっかりと義母の目を見つめて、想いを吐露するのであった。

「アリス。それはあなたの罪ではありません。人は皆、世の中の全てが見えているわけではないのですから。それは私も同じです。私はただ、あなたに幸せになってほしかった。ですが、それゆえにあなたを縛ることになっていたのかもしれませんね…。ですが、それでも……」

アリスがアイリーンの言葉を遮る。

「義母さま! 私はもっと世界を知りたいです。父のように強くなりたいです!そして、この手で守れるものがあるのならば、それを守りたい……」

言葉からは強い決意と覚悟が滲んでいる。

一瞬、気圧されたアイリーンであったが、すぐに優しい目でゆっくりと言葉をかけた。

「…………あなたは、確かに、ロイの強さと、母君の優しさを継いでいるようですね。その芽を摘み取ってしまうのは惜しいかもしれません。ですが……」

そこで、先ほどの遮られた言葉を、アイリーンの隠しきれぬ本心を、あらためて口にした。

「それでも私は、あなたを失うことが怖いのです。先の戦役で、ユージーン様やロイを初め、私は多くの仲間を失いました。この上、あなたまで失うことになったら……」

再び、しばらくの沈黙。

永遠に続くかと思われたその静寂の後、アリスが何か言おうと口を開きかけた時、先にその沈黙を破る者があった。

「それなら、そんなことにならないよう、僕たちがアリスを守ります!」

突如、廊下から声が響いてきた。

驚いたアリスが立ち上がり、部屋の入口へと向かう。扉を開けると、真剣な顔をしたエリオルと苦笑いをするジェラルドの姿があった。

顔にこそ緊張の色は見て取れたが、エリオルは真っ直ぐにアイリーンを見つめて宣言した。

「突然の無礼をお許しください、教皇様。ですが、アリスが成し遂げたいことがあるなら、僕はアリスの力になりたいのです。」

やれやれといった表情でエリオルの後に言葉を続けるジェラルド。

「もちろん、俺もです。まあ、この2人の兄貴分ですから。俺だってどこまででもお供しますよ!」

大らかに笑うジェラルド。エリオルとは対照的だが、言葉に込められた真剣さでは負けていなかった。

「二人とも…」

アリスもさすがに驚いたようであった。友人二人からの思わぬ言葉に、嬉しさよりも戸惑いが先に現れていた。

一方のアイリーンは、真剣に自分を見つめるエリオルを黙って見据えていた。その場の誰も聞きとれない程の声でアイリーンが呟いた。

「その瞳、本当に似ていますね……」

すぐにいつもの優しげな顔になり、アリスに向き直った。

「あなたは、本当に素敵な友人に恵まれましたね、アリス。」

そう言ったアイリーンの顔は、血の繋がりなど必要としないと感じさせる程、子を想う母の顔そのものであった。

涙を拭きながらアリスが答える。

「……はい、義母さま!」

数日ぶりに見るアリスの笑顔であった。

トゥール大聖堂

翌朝、アリス、エリオル、ジェラルドの三人と、セティア、フォルトがアイリーンの元に正式に招集された。

「まずは、ロレーヌを目指すといいでしょう。トゥールに次ぐ教会の拠点でもありますし、何より大陸一の大都市です。世界を知るためには大きな足がかりになるはずです。
アリス、あなたにはこの指輪を。これを見せれば、どこにいても聖王教会の庇護下にある事を証明してくれます。」

そこで、アイリーンは言葉を切り、セティアとフォルトに顔を向けた。

「セティア 並びに フォルト 両名には、この者たちの護衛を正式に命じます。彼らの助けとなってあげなさい。」

「はい、謹んでお受け致します。」フォルトが答えた。

セティアは納得がいかないようであった。

「きょ、教皇様! なぜ私なのですか? 護衛ならば他の者に任せればいいではありませんか!」

「セティア、私はあなたに期待しているのです。」

そこでいったん言葉を切り、真剣な顔で言葉を続けた。

「かの者たちとの盟約は今となっては薄れつつあります。その橋渡しができる者は限られています。」

「っ!…で、ですがっ…」

「旅の中で、あなたにしかできないことを考えてみてほしいのです。」

「…………… かしこまりました …… 謹んで、お受け致します…………」

トゥール郊外

ジェラルドが感慨深そうに言った。

「しかし、まさか旅に出ることになるとはなぁ。村長たちには手紙を書いておいたけど、さすがに驚いただろうな。」

アリスが申し訳なさそうな顔をする。

「ごめんね、私のわがままに2人まで巻き込んじゃって」

「いや、あの夜、アリスの気持ちを聞いてたら、何かせずにはいられなくなって……。ドアの前で聴き耳を立てていたのは悪かったけど。」

エリオルがバツの悪そうな顔をする。

フォルトが、一人前を歩くセティアに声をかけた。

「セティアもそろそろ機嫌を直したらどうだい?」

「うるさいわね。私は別に機嫌悪くなんてないわよ! それより、こんなペースじゃ日暮れまでにこの先の鍾乳洞まで着かないわよ。初日から野宿しようって言うんじゃないでしょうね!?」

一同、苦笑いをしつつも歩を早めるのであった。

鍾乳洞

パーティー
HP攻撃防御魔防習得
エリオル
(Lv15)
42001200500100
アリス
(Lv15)
3400300100500
ジェラルド
(Lv15)
47001000500100
セティア
(Lv15)
3500400100300
フォルト
(Lv15)
4000800200200
敵データ
  • バット
  • スライム
  • ロック
  • ストーンゴーレム
  • 属性:無属性  HP:1,000

    攻撃力:800  防御力:0  魔法防御力:0

    移動力:6  攻撃射程:2

    技名 射程 効果
    通常攻撃 2 単体に 無属性の物理ダメージ800
    超音波 2 円範囲(自身中心:3マス)に 無属性の物理ダメージ800
  • 属性:無属性  HP:1,200

    攻撃力:1,000  防御力:600  魔法防御力:0

    移動力:3  攻撃射程:2

    技名 射程 効果
    通常攻撃 2 単体に 無属性の物理ダメージ1,000
  • 属性:土属性  HP:2,400

    攻撃力:1,200  防御力:300  魔法防御力:0

    移動力:4  攻撃射程:2

    技名 射程 効果
    通常攻撃 2 単体に 無属性の物理ダメージ1,200
    ストーンブラスト 10 単体に 土属性の魔法ダメージ1,000 + 50%の確率で石化
  • 属性:土属性  HP:14,000

    攻撃力:1,800  防御力:400  魔法防御力:200

    移動力:3  攻撃射程:2

    技名 射程 効果
    通常攻撃 2 単体に 無属性の物理ダメージ1,800
    ガイアブロー 2 円範囲(対象中心:3マス)に 土属性の物理ダメージ1,800 + 吹き飛ばし5マス
    ストーンシャワー 10 直線範囲(幅:5マス)に 土属性の魔法ダメージ1,200 + 防御力100ダウン

鍾乳洞の内部は魔物が徘徊していたが、一同は難なく出口付近まで辿り着いた。

エリオル、ジェラルド、フォルトの3人が、再度、周囲の警戒に当たっている間に、残されたアリスとセティアの間には気まずい空気が続いていた。

話のきっかけにと、アリスが尋ねる。

「この先はどこに続いているの?」

少々面倒臭そうな顔をしながらも、セティアが答えた。

「月の浜辺って言う場所ね。海岸沿いに進めば、大陸西部の独立国家『モーゼル帝国』に出るわ。」

「月の浜辺かぁ。何だか素敵な名前だね。」

アリスが屈託のない笑顔で素直な感想を述べた。

セティアも会話に興が乗ってきたようで、言葉を続けた。

「実際は何でもない、ただの浜辺よ。ただ、ちょっとした曰く付きの場所だけどね。」

「どんな?」

「雲ひとつ無いのに、月が全く見えない夜があるっていうのよ。その夜にこの浜辺を通った者は二度と帰って来なかったって。」

「それが、この浜辺なの……?」

アリスの顔色がさっと青ざめた。この手の話には弱いらしい。それを見たセティアが、ちょっとだけ意地悪そうな顔になったが、アリスを安心させるようにすぐにこう言った。

「何にせよ迷信よ。だいたい、二度と帰って来ないっていうのに、噂が広がってる時点でおかしいのよね。帰って来なかった人間が、本当にこの浜辺で姿を消したかなんて誰にも分からないじゃない。おおかた、誰かの作り話でしょ。」

話し込んでいる二人の元にフォルトがやって来た。

「二人ともすっかり仲良くなったみたいだね。」

「別に…」と言うセティアを気にせず、フォルトが続ける。

「交代で見張りをしながらここで一夜を明かそう。明日には、浜辺を抜けてモーゼル帝国に出られそうだ。」


深夜、エリオルが見張りの番になってから、しばらくの時間が経った。他の皆は思い思いに横になっている。すると、アリスが起き上がってエリオルの方へやってきた。

「どうしたの、アリス? 交代の時間まではまだしばらくあるよ?」

「うん……、ちょっと眠れなくて……」

そのまま話し続けるアリス。

「ねえ、エリオル。エリオルは後悔していない? その、…私と一緒に旅に出ることになって……」

不安気な表情で俯き、エリオルの言葉を待つアリス。

「後悔? そんなわけないよ。言ったでしょ、アリスの助けになりたいんだって。友達を応援するのに理由なんていらないんじゃないかな。」

「でも、この前みたいに危険な目にも会うかもしれないし……」

「それなら尚更だよ。アリスを一人になんてできないって。ジェラルドだってそう思ってる。セティアとフォルトも良い人だし、何も心配いらないよ。」

「エリオル…………ありがとう。」

「だから、今は心配せずに眠りなよ。明日になれば、また色んな……」

不意に、エリオルの言葉が途切れる。目が虚空を漂い、表情が失われていく。

「エリオル? エリオル、どうしたの?」

突然、様子が変わったエリオルを見て驚くアリス。

エリオルがつぶやく。「誰かが……呼んでる……」

そのまま鍾乳洞の外へと足を向けるエリオル。

「待って!エリオル! どこに行くの!?」

アリスの声が聞こえないかのように、エリオルは浜辺の方へと歩いていく。

「本当にどうしたの!? なんでいきなり……」

エリオルの後を追って外に出て、ふと空を見上げたアリスの顔が青ざめる。

雲ひとつ無い空に、月は無かった。

「みんなを……起こさないと……!」

アリスは急いで鍾乳洞に引き返した。

月の浜辺

パーティー
HP攻撃防御魔防習得
アリス
(Lv15)
3400300100500エアリアルエッジ
ジェラルド
(Lv15)
47001000500100アクスボンバー
セティア
(Lv15)
3500400100300
フォルト
(Lv15)
4000800200200ミラージュマジック、ホーリーミスト
敵データ
  • シーファウル
  • クラブファイター
  • 属性:無属性  HP:2,000

    攻撃力:1,000  防御力:100  魔法防御力:0

    移動力:7  攻撃射程:3

    技名 射程 効果
    通常攻撃 3 単体に 無属性の物理ダメージ1,000
  • 属性:無属性  HP:1,600

    攻撃力:1,200  防御力:200  魔法防御力:0

    移動力:5  攻撃射程:2

    技名 射程 効果
    通常攻撃 2 単体に 無属性の物理ダメージ1,200
    シザーアタック 2 単体に 無属性の物理ダメージ1,000 + 攻撃力100ダウン

浜辺を走る4人。相変わらず月の無い空と、不気味なほどに静かな海が広がっている。

「エリオル……どうしちゃったんだろう……」

心配そうな顔をするアリス。

「そこまで遠くへ行けるとも思えない……。浜辺沿いをくまなく探そう!」

フォルトの声にうなずく一同。

「あ、あれ!」セティアが指差す方向に倒れている人影が見えた。

「エリオル!!!」叫び、駆け寄るアリス。

「大丈夫、気を失っているだけみたいだ。それよりも……セティア!!」

「はいはい、分かってるわよ! この瘴気、間違いないわね。まったく……。月の浜辺の逸話が本当で、煉獄の使徒が絡んでいたとはね!」

直後、静かだった海に僅かに変化が見られた。穏やかではあるが、波が打ち寄せ、海の方から異様な気配が漂ってくる。海上に髪の長い女性のような姿が現れ、その周囲を、ぼうっとした霧が包んでいた。

「何だ、あれ……人、じゃないよな。」

ジェラルドが思わず口に出した。

「煉獄の使徒よ。自分から討伐されに来てくれるなんて良い心がけじゃない!」

フォルトが言う。「セティア、くれぐれも油断は……」

「大丈夫よ。今までもこれからも、私があいつらに後れをとることなんてないわ。」

そして、未だエリオルの傍を離れないアリスに声をかけた。

「戦うわよ、アリス。」

「でも、エリオルが……」

「強くなりたいんでしょ? 世界を知りたいんでしょ!? だったら、こんなところで立ち止まってられないんじゃないの?」

「そ、それは……」

「それに、その子を、エリオルを助けたくないの?」

「っ!分かった。ごめんねエリオル、すぐに助けるから……」

改めて煉獄の使徒に向き直る4人。こちらの敵意を感じとったのか、海辺から漂ってくる瘴気が一層濃いものとなった。

Boss戦

ウェディーラ

属性:水属性  HP:29,600

攻撃力:1,600  防御力:0  魔法防御力:400

移動力:5  攻撃射程:10

技名 射程 効果
通常攻撃 10 単体に 水属性の魔法ダメージ1,600
さざ波 5 直線範囲(幅:3マス)に 水属性の物理ダメージ1,200 + 攻撃力100ダウン
スリープソング ALL 敵全体に 20%の確率で睡眠
レイニング ALL 敵全体に 水属性の魔法ダメージ1,200
キュア 水属性 魔法:自身のHPを3,000回復
旋律【雨雲の調べ】 「ミスティクラウド」を2体召喚する。
旋律【潮風の調べ】 ALL 敵全体に 無属性の物理ダメージ1500
※このダメージは防御力により軽減されない

ミスティクラウド

属性:幻属性  HP:2,400

攻撃力:600  防御力:400  魔法防御力:0

移動力:10  攻撃射程:2

技名 射程 効果
通常攻撃 10 単体に 無属性の物理ダメージ600
冷気 7 単体に 氷属性の物理ダメージ600 + 20%の確率で凍結
アクアミスト 7 単体に 水属性の物理ダメージ600 + 20%の確率で暗闇
ヒーリングミスト ALL 幻属性 魔法:味方全体のHPを500回復

煉獄の使徒の消滅と共に霧が晴れていく。あれから何時間が経過したのか、夜明けが近いようだった。

「エリオル……」

まだ意識が戻らないエリオルを助け起こすアリス。

フォルトが落ち着いて言った。

「大丈夫。元凶も倒したことだし、すぐに目を覚ますはずさ。」

水平線から朝日が顔を出した。月の無い夜は終わり、新たな一日が始まるのであった。

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